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DATE/ 2021.05.30

なぜ「投資はギャンブル」の印象があるのか?

 これまで日本は、諸外国に比べてあまり投資に積極的ではなかったようです。DIAMOND ONLINEの資料では、「日本でのリスク資産への投資割合は16.1%、アメリカでは53.2%」といったデータが示されています。国内では数年前からNISAやiDeCoなど投資を促進するための施策が行われ、資産運用は老後2000万問題などを乗り越える手段とも言われています。少しずつ資産運用や投資に対する意識は高まってきているようです。一方で「投資はギャンブルではないか?」という声も聞きます。これに対して結論から言えば、たしかにそうなる一面はあったとしても、一般的には「投資はギャンブルとは異なる」と考えられます。ではなぜそう言えるのか、またなぜ「投資はギャンブル」といった印象を持ってしまうのか、考えてみましょう。

バブル崩壊以降の低成長

 日本で投資が進まない理由の一つが、バブル崩壊です。日経平均株価が最高値を記録したのは1989年末の約3万9000円。ここから下がり始めて乱高下ののち、1992年1月末の時点では約2万2000円程度となり、ここから25年後の2017年1月末での株価は約1万9000円となっています。つまり過去25年間で株価はほとんど上昇しなかったことがわかります。つまり、株式や投資信託などの投資市場では、25年間の長期で運用してもほとんど成果を挙げられていません。

 またこの期間(1992年から2017年)の日本のGDPの伸びは0.9%ですが、世界経済は平均して年4.7%の伸びを示しています。世界全体の成長から日本は外れてきました。こういった低成長の市場で何が起こるかと言えば、非常に短いスパンで売り買いする富の奪い合いです。このような市場は敬遠され、一般の投資家は、退場するか、よりハイリスクハイリターンなFXや仮想通貨に向かうか、といった動きになります。これはギャンブル的な売り買いです。このようにバブル崩壊後、日本の投資市場がたいへん低成長だったことが、「投資はギャンブル」というイメージを生み出してきたとも考えられそうです。

投資と成長は両輪、信頼が原動力

 一方、一定の経済成長を背景とする成長市場では、原理的にはだれもが利益を享受することが可能です。たとえば史上最高値を更新しているときは、そこへ投資している人全てが利益をあげている状態です。これまでの歴史を見れば、短期的な変動の波はあっても、基本的に世界市場全体は成長してきました。つまり、経済の成長に伴って投資対象自体の価値が増すことで、プラスサム(合計がプラス)である状態が生まれます。

 投資と成長は両輪なので、どちらも進んでいることが大事です。つまり、成長しているから投資する、投資するから成長するという関係にあります。しかし、この歯車が一旦外れてから再びうまく噛み合うまでは、この先はうまくいくのだと「信頼」して投資するしかありません。いま政府や日銀が行っているのは、この「信頼」を生み出す、もしくは取り戻すための政策といっていいかもしれません。日本の経済が長期的な安定と成長をしていると私たちが確信することができた時、ようやく日本はバブルの影から抜けて、安定的な投資を行うことができるようになるのかもしれません。こうなったときようやく「投資はギャンブル」という意識は薄らぐのではないでしょうか。

<参考サイト>
アメリカでは、金融資産の約53%を投資に回して運用している|DIAMOND ONLINE
https://diamond.jp/articles/-/227611
投資とギャンブルの違いとは何か?|トウシル
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/1943
なぜ「長期」投資が重要なのか?|カブヨム(auカブコム証券)
https://kabu.com/kabuyomu/money/164.html
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西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授