社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.09.23

コロナ時代の安全な国番付 日本は何位?

 各種の「世界で一番安全な国」ランキングで日本はトップクラスの常連ですが、「コロナ時代の安全な国番付」という切り口だとどうなるでしょうか?米ブルームバーグが世界で最も安全な国・地域の番付「COVIDレジリエンス(耐性)ランキング」という評価を毎月発表していますが、その推移を見ると日本のコロナ対策が海外からどう見られているかが浮き彫りになってきます。

2020年10月時点では世界2位 しかしその後は…

 ランキングは「経済再開への進展」(ワクチンを接種した人口割合やロックダウンの深刻度など)、「コロナの状況」(感染者数や死者数など)、「生活の質」(GDP成長率の予測や国民皆保険の浸透など)を元に採点されたもので、2020年10月の時点では日本は2位につけていました(1位はニュージーランド)。今となっては信じられないような数字ですが、当時は全国の新規感染者数が1000人を切っていました。その頃はその頃で必ずしも楽観できる状況ではなかったのですが、海外の感染爆発具合に比べれば日本は感染を押さえ込めていた、という評価になるのも理解はできます。また、この頃はまだ世界中でワクチン接種が始まっていなかったため、評価基準の中にはワクチン接種は当然入っていません。

 10月に2位へ入った際の理由を見てみると、「過去に結核が流行した日本は保健所制度を維持しており、追跡調査が新型コロナでも迅速に採用された。高いレベルの社会的信頼やコンプライアンス(法令順守)を背景に国民は積極的にマスクを着用し、人混みを避けた」と評価されています。追跡調査ができない、緊急事態宣言下でも密が発生、などなど翌年に問題が噴出したのとは対照的ですね。

 2021年4月までは10位圏内をキープしていましたが、順位を大きく落とし始めるのは5月から。やはりワクチンの接種遅れが目立ち、さらに感染再拡大も重なって右肩下がりに。5月に14位と初めて10位圏外へ落ち、2021年8月調査では33位となっています。ちなみに8月の1位はノルウェー。北欧諸国も日本と同じく様々な「安全な国」ランキングで上位の常連ですが、時期によっては10位圏外へ落ちていたこともあります。アメリカは8月に25位ですが、ワクチン接種で先行していた6月には1位に躍り出ていたことも。感染者数が世界一多くても、別の部分が評価に値すれば上位につけることもあるという例ですね。

日本で弱点とされている部分はどこなのか

 このランキングを上げることは目的ではなくあくまでコロナの感染拡大を抑えた結果が順位に反映されるわけですが、現状の日本の各評価項目を見ると“弱点”がどこにあるのか見えてきます。8月の評価を見ると、足を引っ張っているのは航空便が2019年比で減少していることや、経済成長率予測が低く見積もられていること。つまり感染拡大の状況やワクチンの接種遅れが他の国と比べて悪いというわけではなく、コロナの影響で経済活動が停滞していることが日本の弱みと見られているわけです。

 総体的に見れば感染拡大状況が世界の中で悪いレベルではないものの、日本国内での医療の逼迫状況などは深刻であることに変わりはありません。感染拡大を抑えたうえで、さらに経済を回すことも次のステップとして考えていかないと日常は戻ってこない、そうしたことを示唆している評価と読み解けるのではないでしょうか。

<参考サイト>
・Covid Resilience Ranking: The Best and Worst Places to Be in 2021
https://www.bloomberg.com/graphics/covid-resilience-ranking/
・コロナ時代、世界で最も安全・危険な国・地域とは-耐性ランキング - Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-11-24/QKA1FUT0AFBM01
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
3

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
4

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
5

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授