社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
なぜ開かずの踏切は無くならないのか
いつ開くかわからない「開かずの踏切」
2021年4月1日、改正踏切道改良促進法によって、全国で93か所の踏切が「改良すべき踏切」に指定されました。これは、直近5年間に2回以上事故が発生しているなどの12項目にひとつでも当てはまる踏切が対象です。このうち「一時間の踏切遮断時間が四十分以上のもの」は、「開かずの踏切」として改善を望まれています。今回、対象となった開かずの踏切には次のようなものがあります。
東急電鉄大井町線戸越公園1~4号:戸越銀座駅付近には開かずの踏切が複数あり、ピーク時には1時間以上開かないことも。一度開いてもすぐに遮断機が下りてしまうため、警報を無視して横断する人が後を絶ちません。開かずの踏切が集中する都内でも早急に対策が必要とされる踏切です。
西武新宿線野方第1号:野方駅付近の踏切は開かずの踏切であることに加えて道が狭く、近隣にある3つの学校の登下校時間がラッシュと重なるため、駅周辺がとても混雑します。歩行者と自転車の接触事故も発生しており、特に高齢者や子どもには危険な踏切といえます。
京王電鉄京王線柴崎3号:柴崎駅付近の踏切は、ピーク時には50分近く開かないこともあります。車や歩行者が密集して危険なため、通学する児童を見守る監視員が配置されています。京王線は都内で最も開かずの踏切が多い路線で、線路の高架化計画が進められています。
なぜ踏切が開かなくなるのか
筆者は京成線の押上駅をよく利用しますが、この近くにもかつて開かずの踏切がありました。東武伊勢崎線の業平橋駅(現在のとうきょうスカイツリー駅)に向かう東武線と押上駅に向かう京成線の2社路線が通過するため、ラッシュ時には電車がひっきりなしに通り、いつまでも開かなかったことを覚えています。この問題は、東武線が高架化されてかなり改善されました。「踏切が開かない」という状況は、このようにそれぞれのダイヤで走っている複数の鉄道会社の路線が重なると起こりやすくなります。一方で、京王線には京王線1社の電車しか通過しない開かずの踏切が数多くあります。この場合は、電車の種別が各駅停車から特急まで多種多様で、運行本数が増えることから電車が“渋滞”して踏切が開かなくなっています。ラッシュ時の電車が極端にゆっくり走っていることがあるのは、前を走る電車が詰まってしまって、まさに“渋滞”しているからです。
もちろん、電車がはじめて通った明治時代から開かずの踏切問題が深刻だったわけではありません。都市が発展して電車の利用者が増えたため、もともとは安全に運用されていた踏切が開かずの踏切になってしまったという経緯があります。それは、開かずの踏切のほぼ半数が首都の東京都にある点からもわかるでしょう。
開かずの踏切解消がなかなか進まない理由
開かずの踏切があると人や車の流れが滞るだけでなく、無理やり渡ろうとした人や渡りきれなかった高齢者が事故に遭う危険性もあります。2005年には、東武伊勢崎線竹ノ塚駅近くの伊勢崎線第37号踏切という開かずの踏切で、踏切を渡っていた歩行者4人が電車にはねられて死傷するという事故が起きました。この踏切は踏切保安係が手動で開閉していましたが、あまりに電車の本数が多くて横断できない人たちがストレスを感じるため、危険と思いながらも遮断機を上げたところに電車がきてしまったことが原因で起きた事故でした。
竹ノ塚駅近辺の線路は事故以前から高架化を要望する地域住民が多く、事故から6年後、ついに高架化の工事がはじまりました。今年の年末に踏切が撤去され、2023年にすべての作業が完了する予定です。通常、都内の踏切除去工事は東京都が主体になって進めますが、この工事は緊急性があるため、竹ノ塚駅が位置する足立区が主体になっています。
この竹ノ塚駅の例からもわかるとおり、開かずの踏切を解消する方法は線路を高架化したり地下化したりする立体交差化です。しかし立体交差化の工事には多額の工事費と長い工期がかかってしまうため、すぐにはできないのが現状です。竹ノ塚駅の場合、近隣の駅である西新井駅から谷塚駅までの1.7kmの高架化で踏切を撤去するまでに9年間かかり、総事業費は540億円以上かかったといわれます。着工するまでにも6年かかっており、簡単にできる工事ではないことがわかりますよね。
それでも、開かずの踏切での渋滞や危険横断は今日も起きています。また痛ましい事故を繰り返さないためにも、早め早めの改善が望まれます。
<参考サイト>
・くるまのニュース なぜ「開かずの踏切」は解消されない? 渋滞や事故が多発する踏切の実態とは
https://kuruma-news.jp/post/224253
・鉄道プレスネット 東武竹ノ塚駅「高架化」工事のいま 急行線もうすぐ完成、残る緩行線はいつ?
https://news.railway-pressnet.com/archives/16287
・トラベルWatch 国交省、改正踏切道改良促進法に基づく“改良すべき踏切道”第1弾指定。全国93か所
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1318/292/amp.index.html
・国土交通省 2.踏切道の課題
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/fumikiri/fu_02.html
・くるまのニュース なぜ「開かずの踏切」は解消されない? 渋滞や事故が多発する踏切の実態とは
https://kuruma-news.jp/post/224253
・鉄道プレスネット 東武竹ノ塚駅「高架化」工事のいま 急行線もうすぐ完成、残る緩行線はいつ?
https://news.railway-pressnet.com/archives/16287
・トラベルWatch 国交省、改正踏切道改良促進法に基づく“改良すべき踏切道”第1弾指定。全国93か所
https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1318/292/amp.index.html
・国土交通省 2.踏切道の課題
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/fumikiri/fu_02.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは
日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道
機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは
地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題
国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか
第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ
反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事
AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か
昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05