テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.08.21

警察じゃなくても「逮捕」はできるのか

 「逮捕」は通常、警察が行います。しかし一定の条件を満たしていれば、一般人が被疑者を逮捕することも可能です。「逮捕」とは「相手を身動きできないように拘束する」という意味です。他者の自由を奪う行為なので、やはり一般人が行うには、リスクがあります。では、どういった場面で一般人が「逮捕」することができ、またどういったリスクがあるのでしょうか。

逮捕には大きく3種類ある

 法律上の「逮捕」には、大きくは「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の3種類があります。「通常逮捕」は裁判官により発布された逮捕状をもとに、警察官や検察官が行う逮捕のこと。一般的に私たちがドラマなどで見ることの多いシーンでもあります。これに対して「現行犯逮捕」とは、犯罪が起きているその現場で逮捕したり、犯罪直後の被疑者を逮捕したりするものです。この場合、犯人を取り違えるおそれが低いことなどもあり、逮捕令状の発付は不要です。

 また事前の令状なしで逮捕できるのが「緊急逮捕」です。ただしこれは例外的な逮捕です。「緊急逮捕」できる場合の条件は、「重大な犯罪」であること、「被疑者の嫌疑が十分」であること、「被疑者に逃亡や証拠隠滅の恐れがある」ことです。ただしこの場合でも、逮捕したのち直ちに令状の発付を受ける必要はあります。

 唯一「現行犯逮捕」に関しては一般人でも可能です。一般人が逮捕することを「私人逮捕(常人逮捕)」と言います。「現行犯」の場合、今目の前で犯罪が行われている状況なので、犯行が明確かつ、犯人を取り違える可能性はかなり低いと考えられることもあり、「私人逮捕」が可能とされています。これに該当する事例はたとえば万引き行為を目撃した場合や、敷地に他人が侵入している場合、といったことが考えられます。

「私人逮捕」にはリスクが伴う

 犯罪はいつ起きるか分かりません。だからこそこういった「私人逮捕」が可能であることで、法秩序は保たれています。ただし、「私人逮捕」はトラブルに発展しやすいことも事実です。逮捕できる条件をしっかり意識しておく必要があります。

 私人逮捕できる条件は、現行犯もしくは準現行犯(罪を犯して間もない状態)であることが前提です。また、容疑が過失傷害罪や侮辱罪といった軽度の犯罪(30万円以下の罰金、拘留、科料の罪)の場合、犯人の住所や氏名が不明で、逃走するおそれがある場合に限られています。つまり、犯人の住所や名前がわかる場合などは私人逮捕できないことになっています。

 この条件に合致しないと、捕まえた人の方が罪に問われることもあるようです。また、相手に怪我をさせるような過度の取り押さえになった場合、暴行罪に問われるかもしれません。また、正当な理由なく警察署などへ引き渡さなかった場合は、逮捕監禁罪に問われる可能性もあります。もしこれらに該当せずとも、誤認逮捕だった場合、それなりの責任を問われることにもなりそうです。

指名手配犯は私人逮捕できない

 指名手配犯は現行犯ではないので一般人が逮捕することはできません。指名手配犯を見たと思ったら警察に連絡しましょう。もちろん私人逮捕は、社会の秩序を維持する上で必要な制度です。ただし、ここまで見てきたように、逮捕できる条件はやや細かいです。また、犯人が暴れるかもしれない場合や、犯罪の事実が確実とはいえない場合、私人逮捕のリスクはやや大きすぎるとも言えるでしょう。

 もちろん状況によりますが、基本的には110番通報を優先させましょう。その上で、現行犯をやめさせることが可能であればその方法に知恵を絞るのはどうでしょうか。また車のナンバーを控える、犯人を写真に撮っておくといったように証拠を抑えておけば、被害者がいた場合にその人を救うことにつながります。正義感を持つことは悪いことではありません。しかし、正義感ゆえにその場の状況を見誤ることは起こります。

<参考サイト>
私人逮捕とは|一般人でも逮捕できる要件と4つの事例を解説|刑事事件弁護士ナビ
https://keiji-pro.com/columns/5/
一般人でも犯罪者を逮捕できる?その仕組みは。|DARWIN LAW OFFICE
https://criminal.darwin-law.jp/column/1375/
逮捕には逮捕権が必要? 私人逮捕されるケースを解説|ベリーベスト法律事務所 刑事事件
https://keiji.vbest.jp/columns/g_other/5641/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?

今井むつみ先生が2024年秋に発刊された岩波新書『学力喪失――認知科学による回復への道筋』は、とても話題になった一冊です。今回、テンミニッツ・アカデミーでは、本書の内容について著者の今井先生にわかりやすくお話しいただ...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/16
2

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
3

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯

ピアニスト江崎昌子氏が、ピアノ演奏を交えつつ「ショパンの音楽とポーランド」を紹介する連続シリーズ。第1話では、すべてのピアニストにとって「特別な作曲家」と言われる39年のショパンの生涯を駆け足で紹介する。1810年に生...
収録日:2022/10/13
追加日:2023/03/16
江崎昌子
洗足学園音楽大学・大学院教授 日本ショパン協会理事
4

最近の話題は宇宙生命学…生命の起源に迫る可能性

最近の話題は宇宙生命学…生命の起源に迫る可能性

未来を知るための宇宙開発の歴史(13)発展する宇宙空間利用と進化する技術

技術の発達・発展により、宇宙空間を利用したさまざまなサービスが考え出されている。人間の環境を便利にするものであり、また攻撃技術にもつながるものであるが、さまざまな可能性を秘めている。さらに宇宙空間の利用は、天文...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/10/19
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
5

中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う

中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う

クーデターの条件~台湾を事例に考える(6)クーデターは「ラストリゾート」か

近年、アフリカで起こったクーデターは、イスラム過激派の台頭だけではその要因を説明できない。ではクーデターはなぜ起こるのか。また、台湾よりも中国のほうがクーデターが起こる可能性はないのか。クーデターは本当に「ラス...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/18
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長