テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.11.17

新500円玉が浸透していない理由

 新500円玉が発行を開始したのは2021年11月1日ですが、最近になってやっと見かけることが多くなりました。しかしその浸透率はまだまだ。中にはすでに流通していることすら知らない人もいるようです。

 今回は、新500円玉がなぜそこまで浸透していないのか、その理由について深掘りしていきます。

新500円玉の特徴

 まずは新500円玉が現行の500円玉と比べてどう変わったのか、改めて見ていきましょう。

【1】バイカラーな見た目
 現行の500円玉の素材はニッケル黄銅のみで見た目1色なのに対し、新500円玉は円の外側と内側で素材が異なるため、2色に見えます。

 新500円玉の外側のリング部分は従来の500円玉と同じニッケル黄銅。いっぽう内側のコア部分は2枚の白銅で銅を挟んだ3層構造となっています。ニッケル黄銅のリングの内側に、白銅・銅・白銅の3層の円板をはめこんでいるのです。

 この技術を「バイカラー・クラッド(二色三層構造)」ということから、新500円玉は「バイカラー・クラッド貨」とも呼ばれています。

【2】貨幣の側面に「異形(いけい)斜めギザ」が入る
 貨幣の側面にある斜めのギザギザにも違いがあります。現行の500円玉のギザギザは等間隔で均一であるいっぽう、新500円玉の一部(上下左右)は広がったような形のギザギザがあるのが特徴です。じつはこの「異形斜めギザ」という技術が通常貨幣(大量生産型貨幣)に使われるのは、世界初なのだそう。

【3】ふちの溝に微細文字
 ふちの溝をよく見ると、非常に小さな文字で「JAPAN」または「500YEN」の文字が入っています。

【4】「500」の中にある潜像
 従来の500円玉を下からのぞき込むと、「500」の「00」の中に「500円」という文字が浮かび上がるのが見えるでしょう。これを潜像といい、新500円玉にも同様のものが見えます。ただし新500円玉は上から見ると「JAPAN」、下から見ると「500YEN」と出てきます。見方によって違う文字が浮かび上がるという、より高度な潜像が施されているのです。

【5】微細点と微細線
 転写などの偽造防止のため、従来の500円玉よりもより細かな点、線の模様が随所に施されています。線は髪の毛よりも細く、現状の金属彫刻における最先端技術が使用されています。

なぜ新500円玉はあまり流通しないのか

 最新の技術が取り入れられ、工夫が凝らされている新500円玉。財務省の発表によると、2021年度の新500円玉の発行数は2億枚、2022年度は3.65億枚を予定していたとのこと。

 とはいえ、新500円玉はまだ十分に行き渡っているとはいえない状況。キャッシュレス化によりそもそも硬貨を使うシーンが限られてきているというのも浸透しない理由のひとつですが、最大の理由は「使えない場所が多い」ということでしょう。自動販売機や券売機などで、未だ新500円玉が使えない機械が少なくないのです。

 すでに発行が始まって数年となりますが、対応が遅れているのはなぜでしょうか。

新500円玉への対応が遅れがちな理由2点

【1】費用・コスト面
 自動販売機や券売機、両替機などには、投入された硬貨を正しく認識・選別する機器であるコインセレクター(硬貨選別機)が入っています。新しい硬貨を識別できるようになるためには、このコインセレクターを交換・更新するか、販売機そのものを取り替える必要があります。しかし交換費用は最低でも5万円、機械ごと取り替えになると数十万はかかるといわれ、これが事業者にとって大きな負担となってしまうのです。

 駅やバスといった公共交通機関では、乗客の利便性を考え導入するところも増えていますが、近年のキャッシュレス化もあり「現金対応のためにどこまでコストをかけるべきか」という点で難しい判断を迫られているのが現状のよう。

 また2024年には新紙幣が発行されることも、事業者の頭を悩ませています。新紙幣が発行されたタイミングでの交換のほうが負担は少ないと考え、今回の新500円玉対応を見送る業者も多いのです。

【2】半導体不足
 新500円玉への対応が進まないもうひとつの要因が、世界的な半導体不足です。半導体はパソコンやスマートフォンなどコンピューターを動かすために欠かせないものですが、近年、コロナ禍の巣ごもり需要の増加などによって2021年夏ごろから世界的に不足し始めました。そのため必要な部品を輸入できないなど、機器メーカーが大きな影響を受けているのです。

 実はコインセレクター内部にある識別センサーにも半導体が使われています。しかしこの世界的な半導体不足の影響から、たとえ新機種を注文しても製造・出荷に数ヶ月かかる場合があり、これが新硬貨への対応の遅れにつながっているのです。

 まだまだ出番が少なそうな新500円玉。とはいえ、最新技術を詰め込んだその精巧な作りは、さながらアート作品のようでもあります。もしも手元にあったら使えるようになるその日まで、その緻密なデザインをゆっくり鑑賞するのもいいかも(?)しれません。

<参考サイト>
・新しい五百円貨幣の発行開始日について(財務省)
https://www.mof.go.jp/policy/currency/coin/211001.html
・解説!新しい500円貨(財務省)
https://www.mof.go.jp/policy/currency/bill/20210816.html
・自販機で使えない『新500円硬貨』...対応にも「半導体不足」が影響 さらに「キャッシュレス」「新紙幣」も事業者を悩ませる種に(MBSNEWS)
https://www.mbs.jp/news/feature/kodawari/article/2021/12/086917.shtml
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
より深い大人の教養が身に付く 『テンミニッツTV』 をオススメします。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

民族自決原則とは?多民族国家が抱える難題と矛盾

民族自決原則とは?多民族国家が抱える難題と矛盾

地政学入門 ヨーロッパ編(6)「ロシア世界」と民族自決原則

「ルスキー・ミール」という言葉で代表される「ロシア世界」――それは、実際の国境にとどまらず、自国語を話す周辺領域の市民をも包括した概念。プーチンはそれを使ってウクライナ侵攻を正当化するが、国家外の自民族の保護を優...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/09
小原雅博
東京大学名誉教授
2

米国史で最も「主権主義者」を体現しているのはトランプか

米国史で最も「主権主義者」を体現しているのはトランプか

トランプ2.0と中東(2)保守主義者から主権主義者へ

トランプ2.0の政治手法や姿勢からは、支持者が信じる保守主義の影が薄れている。「自国第一主義」を守るためなら、桁外れの関税も議事堂襲撃も恐れない。むしろ大国仲間としてロシアに接近する風すらうかがえる。見えてくるのは...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/08
山内昌之
東京大学名誉教授
3

問題だらけの閣僚たち…トランプ政権の真の公約とは?

問題だらけの閣僚たち…トランプ政権の真の公約とは?

第2次トランプ政権の危険性と本質(5)トランプの政治手法の問題とは?

トランプの経済政策は、文化戦争の手段としての反グローバリズムという軸で理解するしかないが、そのような政策を進めるトランプ政権の政治手法の問題点はなにか。その背景には、陰謀論者が全部入ってしまったような閣僚の問題...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/07
柿埜真吾
経済学者
4

その後の余命が変わる!続けるべき良い生活習慣とは

その後の余命が変わる!続けるべき良い生活習慣とは

健診結果から考える健康管理・新5カ条(7)良い生活習慣が健康寿命を延ばす

健康診断の結果に一喜一憂するだけではなく、そのデータを活用し、生活習慣を見直すことが大切である。今回は、内臓脂肪の管理が健康維持に直結する理由や、体重増加と糖尿病リスクの関係、さらには良い生活習慣が寿命に与える...
収録日:2025/01/10
追加日:2025/05/27
野口緑
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授
5

健康寿命に大きく影響する骨粗鬆症・歯周病・変形性関節症

健康寿命に大きく影響する骨粗鬆症・歯周病・変形性関節症

老いない骨のつくり方(1)高齢化と骨の病気

東京大学工学系研究科・医学系研究科教授の鄭雄一氏による「老いない骨のつくり方」シリーズ講話。鄭氏はレクチャー冒頭で、「情報に溺れず正しい情報を選択する能力がいかに大切か」と語り、誤った情報は「人生の栄養失調」に...
収録日:2016/09/14
追加日:2016/10/20
鄭雄一
東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授