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DATE/ 2023.09.09

今更聞けない?国民年金と厚生年金のちがい

 年金には大きく分けて「国民年金」と「厚生年金」の2つがあります。このことはなんとなく知っているけれど、実際にどのような違いがあるのかよく分からない、という人も多いのではないでしょうか。ということでまずはここで2種類の年金の違いについて理解しておきましょう。

「厚生年金」の人も「国民年金(基礎年金)」を払っている

 「国民年金」は「基礎年金」とも呼ばれ、日本に住む20歳以上のすべての人が加入するものとされています。これに加えて企業などに勤めている人は「厚生年金」に加入している、ということになります。このように「厚生年金」は「国民年金(基礎年金)」の上に「厚生年金」が乗る、2階建ての構造です。つまり、「厚生年金」を払っている人は、同時に「国民年金」にも加入しているので、給付が手厚くなるという仕組みとなっています。

 「国民年金」のみに加入している人は、国民年金の区分では「第1号被保険者」と呼ばれます。これに該当するのは、主に自営業者や農業者、学生、無職といった立場のひとです。一方、「厚生年金」に加入している人は、年金の区分では「第2号被保険者」となり、公務員や会社員が該当します。また「第2号被保険者」の扶養に入っている年収130万円未満の20歳から60歳未満の配偶者は「第3号被保険者」とされ、「国民年金」に加入しているとみなされます。
 

それぞれどれくらい払うのか

 ではそれぞれ実際にどれくらい払う必要があるのでしょうか。まず「国民年金(第1号被保険者)」の場合、毎年春頃に一定の額が決められます。たとえば2023年(令和5年)は毎月16,520円の定額とされています。年間に換算すると198,240円の支払いです。ちなみにまとめて前払いすると割引されます。この金額は毎年の物価状況などに応じて変更されます。また原則20歳から60歳までの間、支払うことになります。

 これに対して「厚生年金(第2号被保険者)」は、月給の18.3%の負担となっています。ただしこのうち半分は事業主が負担するので、本人が負担するのは9.15%。つまり、30万円の給与収入がある場合、27,450円が年金として差し引かれることになります。「厚生年金」は就職してから退職するまで加入することができます。また「厚生年金(第2号被保険者)」に扶養されている「第3号被保険者」は、20歳から60歳まで加入可能ですが、国民年金保険料を支払う必要はありません。

どのくらいもらえるのか

 では現役を引退したあと、現状ではそれぞれいくらもらえる計算なのでしょうか。「国民年金」の場合は保険料を納めた期間に応じて金額が異なります。一方「厚生年金」の場合、保険料を納めていた期間に加えて、働いていたときの賃金に応じた金額が計算されて「国民年金(基礎年金)」の支給額に上乗せされます。ただし、そのときの経済状況や社会状況に影響されると考えておきましょう。ここではとりあえず2023年(令和5年)現在での状況を見てみます。

 「国民年金(第1種被保険者)」の場合、満額受給であれば毎月6.6万円です。一方、「厚生年金」に加入していた場合は平均で毎月約14.9万円。基礎年金(国民年金)の分の定額に加えて、「厚生年金」の分が所得に比例して支払われることで変動します。また「第3号被保険者」は満額受給の場合、毎月6.5万円となっています。どの年金であっても現在は65歳以降死亡するまで受給できることになっています。ただし年金を受給できる年齢はこれまでにも引き上げが行われてきました。今後も状況により変化する可能性はあります。

「国民年金」を納めないことは可能か

 「厚生年金」の場合は給与からその分が引かれて支給されていると思われます。一方、「国民年金(第1号被保険者)」の場合、自身の意思で納める必要があります。このことから「国民年金」を払わない、もしくは払い忘れていている人もいると思われます。もちろん「国民年金」は一定期間納めなければもらうことはできないのですが、「もらえなくても構わないので払わない」と考えることは問題ないのでしょうか。

 結論から言えば、日本に住む20歳以上60歳未満の人は国民年金を支払う義務があります(第3号被保険者以外)。またもし本人が払えない場合は、世帯主や配偶者といった立場の人が納めることになります。ただし払えないときには、手続きを行うことで支払い猶予を受けることは可能です。ではなぜ義務なのでしょうか。国民年金は自身の老後を支えるという目的と同時に、現在受給している人たちを支える資金でもあるからです。この考えは「賦課方式」と呼ばれています。つまり、現在の日本の年金制度は現役世代が年金受給世帯の生活を支える仕組みです。

 ただしこの方式の場合、少子高齢社会においては現役世帯の負担がかなり苦しいことになります。この点についてはこれまで、働く意欲のある高齢者や女性などへの働きかけによって担い手を増やす工夫もなされてきました。また、その年に使われなかった年金は積み立てられています。この積立金は株式や債券などで資産運用され、将来の年金財源とするといった方策もとられているようです。

<参考>
国民年金と厚生年金の仕組み│厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/document/pdf/mechanism_a4.pdf
公的年金制度の種類と加入する制度│日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/seidozenpan/20140710.html
国民年金保険料の額は、どのようにして決まるのか?|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/hokenryogaku.html
国民年金保険料|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/hokenryo.html
いっしょに検証!公的年金~年金の仕組みと将来~ 第06話積立金の役割|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/manga/06.html
国民年金保険料「もらう気がないから払わない」はやめた方がいい│東証マネ部!
https://money-bu-jpx.com/news/article043073/
厚生年金保険料の計算方法とは?給与計算で迷わないための基礎知識|弥生
https://www.yayoi-kk.co.jp/kyuyo/oyakudachi/koseinenkinhoken-01/
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