社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.05.20

同じ色なのに違って見える?身近な錯視効果

 みかんは赤いネットに入れられ販売されているのが一般的。みかんの色をより鮮やかに、より美味しそうに見せるために、ネットを使って「錯視」という作用を利用しているといいます。

錯視とは

 錯視というのは、いわゆる「目の錯覚」のこと。実際に目で見ているものとは違うように見せる、脳の働きの一つです。目から入った情報信号が脳に伝えられ、脳がその情報を処理するときに起こるバグ。脳に視覚が騙されている、と表現されることもあります。

 冒頭でのみかんネットは「色の同化」という錯視です。サムネイル画像のみかんはどちらも同じ色ですが、違う色に見えませんか?他にも緑色のネットに入っているオクラ、白いネットに入れられるニンニクなど、素材の色をより強調し、美味しそうに感じさせる効果で使われています。その他にも、日常の中には様々な錯視の作用を利用した物やデザインがあります。その一部をシーン毎にご紹介します。

【道路】

・道路の両端に書かれている白い点線
 これは道路の幅を狭く感じさせ、注意して運転してもらうために錯視を利用しています。

・立体的に見える路面表示
 実際には平面に書かれた図柄が、傷害物や立体物があるように見える錯視を利用した「イメージハンプ」という手法で注意喚起しています。ドライバーはこれを認識するとアクセルから一瞬足を離すため、実際に事故率低減にかなりの効果が出ているといいます。

【建造物】

・パルテノン神殿の柱「エンタシス」
 重厚な建築物を下から見上げた時に安定感を感じるように、柱の真ん中部分に緩やかに膨らみを持たせるエンタシスという技法。真っ直ぐの柱だと真ん中が細く感じる人間の目の錯覚を逆手に取った設計とも言えるかも。日本でも法隆寺や唐招提寺などの歴史的建造物にもこのエンタシスの柱が用いられています。

・実際より大きく見えるシンデレラ城
 ディズニーランドのシンデレラ城は大きく見せるために、上にいくほど細く小さく設計されているそう。下部がどっしりしていると見上げた時に大きく感じる錯視を利用しています。その他のアミューズメントパークでも、実際よりも広く見せたり、奥行きを感じさせる錯視を意識したデザインが採用されています。

【ファッションやメイク】

・スタイルよく見せる着こなし
 例えばセンタープレスやサイドラインの入ったパンツ、横縞のボーダーより縦縞のストライプ、引き締まったイメージを与える濃暗色などのファッションで「着痩せ」して見せるのも錯視の一つ。ベルトでウエストマークしたり、ハイウエストのボトムで腰高に錯覚させ足を長く感じさせたり、ファッションには錯視を利用した着こなしやデザインが溢れています。

・整形メイク、小顔メイク
 実際には小さな目の人でも、つけまつ毛やマスカラ、アイラインなどで目の輪郭を誇張し、目自体を大きく感じさせる錯視を使用したメイクテクニック。輪郭に影となる色を入れて小顔に見せるシェーディング、顔を立体的に見せるハイライトなど、見る人の錯視を意識したメイクも様々です。

【インテリア】

・部屋を広く見せる色や家具の配置
 錯視の一つである「遠近法」を利用し目線の奥に行くほど背の低い家具を置くと部屋を広く感じさせることができます。また明るい色の白っぽい床や壁にも広く感じる効果が。フローリング板の向きも奥行きを表現できるため重要なのだそう。

・レースのカーテン
 色も素材も薄いカーテンであっても、レースの模様が室内の人や物の輪郭の認識を妨げる錯視が働いています。レースの網目は粗い方がより物体の輪郭をぼやかす錯視効果が高いそうです。

 日常生活でも、仕事でも、私たちは無意識に多くの錯視効果の中に暮らしているようです。例えば、料理の盛り付け、人目をひくための広告や資料のデザイン、ファッションやインテリアのコーディネートなど、意識して錯視を利用してみるのも面白いですね。

<参考サイト>
みかん、オクラ、ニンニク──スーパーで見られる「色の錯視」を知ってる?│ITmedia
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2002/07/news008.html
目の錯覚(さっかく)のいろいろ│Canon
https://global.canon/ja/technology/kids/mystery/m_04_18.html
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ

「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造

宇宙とは何かを考えるうえで中国の古典である『荘子』・『淮南子(えなんじ)』に由来する「宇宙」という言葉が意味から考えてみたい。続いて、地球から始まり、太陽系、天の川銀河(銀河系)、局所銀河群、超銀河団、そして大...
収録日:2020/08/25
追加日:2020/12/13
岡朋治
慶應義塾大学理工学部物理学科教授
2

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは

歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本

「歴史を探索していく」とは、どういうことなのだろうか。また、「歴史を活かしていく」とはどういうことなのだろうか。歴史作家の中村彰彦氏に、歴史を探り、活かしていく方法論を、具体的に教えてもらう本講義。第一話は、歴...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/14
3

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ

編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?

「何回説明しても伝わらない」「こちらの意図とまったく違うように理解されてしまった」……。そんなことは、日常茶飯事です。しかしだからといって、相手を責めるのは大間違いでは? いやむしろ、わが身を振り返って考えないと...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/13
4

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質

「ワット・ビット連携」の概念がある。これは神経と血管の関係にも似ており、両者が密接に関係するところから、それをもとに人間の本質について考察していくことになる。また、中村天風の思想から着想を得て、人間の心には霊性...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/13
5

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動

内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解

アメリカの大転換はトランプ政権以前に起こっていた。1980~1990年代、情報機器と金融手法の発達、それに伴う法問題の煩雑化により、アメリカは「ラストベルト化」に向かう変貌を果たしていた。そこにトランプの誤解の背景があ...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/11