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『アリの巣をめぐる冒険』でわかる生物多様性のすばらしさ
子どものころ、日々の遊びのなかできっと目にしたであろうアリの行列。今よりずっと低い目線から見下ろす地面には、せっせと動きまわり、おもしろくも興味深く、巣穴かから出入りするアリたちの世界が広がっていました。しかし、自身のからだの成長とともに、そうした昆虫の世界とは疎遠になってしまったという方も少なくないことでしょう。
九州大学総合研究博物館で准教授を務めている丸山宗利さんは、そんな子どものころの興味をずっと持ち続け、その生態や特徴を追い求めてきた、昆虫の専門家です。とくにアリやシロアリ、そしてアリたちと“共生”する昆虫を専門に研究されています。
今回は著書『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』(幻冬舎新書)をもとに、丸山さんが携わってきた、研究の世界をご紹介していきます。
丸山さんは、昆虫の研究のなかでも、とくに“分類”という研究を中心に行っています。たとえば人にたとえると、「哺乳類霊長目(サル目)ヒト科ヒト属ヒト、学名はホモ・サピエンス」という分類になります。本書のなかで、昆虫の分類について「大部分の研究では、微塵ほどのハエさえも、分類学者はトラとイエネコを区別するくらいにはっきりと見分けている」としています。
パッと見ではその違いがわからない昆虫も、毛の密度や触覚の微妙な形の違い、顕微鏡で見なければわからない模様などで細かく分類が分かれているのです。この分類を行うために、指先に乗る程度の小さな昆虫を顕微鏡で眺め、脳外科医でさえ驚くような繊細な解剖をし、それを図として起こすなどのさまざまな調査研究が必要なのです。
第1章のタイトルは「好蟻性昆虫学ことはじめ」。「好蟻性昆虫」とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、つまり「アリたちと“共生”する昆虫」のことです。アリの巣をよく観察していると、実はアリではない生き物がアリ社会のなかで生活していることがわかります。丸山さんはこの「好蟻性昆虫」に着目し、研究を進めていきます。
アリそのものの生態や種類、そして数多くの好蟻性昆虫たち。野外調査を行った場所は日本にとどまらず、極東ロシアに韓国、マレー半島、タイ、ボルネオ、南米のエクアドルやペルーなど世界各地に広がります。現地の人の協力も得ながら、各地の生態系のなかで、独自の生態を持ったアリとその仲間たちを見つけていくのです。先に挙げた細かな研究が必要なのはもちろん、まだ見ぬ分類の昆虫にめぐりあうという幸運も重要です。求める昆虫がなかなか見つからないこともあれば、苛酷な環境での観察を強いられる場面もあります。
続々と出てくる種の名前、属の名前。そして、それらの生物が似ているところ、異なるところ。丸山さんの研究半生を追っていくと、わたしたちが何の気なしに見ていた地面の下はこんなにも多様な生物たちであふれているのかと感心すること必至です。
本書の第4章でそう語る丸山さんは、まるで未知との遭遇を果たしたかのように、コカマキリに強い衝撃と恍惚感を受けたのだとか。まさに「三つ子の魂百まで」という言葉に相応しく、現在に至るまでその情熱を昆虫に注いでいます。
最初の出版から12年。丸山さんの活動はその幅を広げ続けています。新しい書籍の執筆に、博物館で行われる展覧会の企画・監修、「子ども科学電話相談」など枚挙に暇がありません。丸山さんは「分類学にはさまざまな意義があるが、その一つに生物多様性の理解がある」と記しています。「生き物の多様性とそのすばらしさを伝えたい」という思いが、昆虫と出会った原体験とともに研究活動を続ける丸山さんの背中を押しているようです。
本書を片手に、子どものころの気持ちを思い出しながら、昆虫たちの世界に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
九州大学総合研究博物館で准教授を務めている丸山宗利さんは、そんな子どものころの興味をずっと持ち続け、その生態や特徴を追い求めてきた、昆虫の専門家です。とくにアリやシロアリ、そしてアリたちと“共生”する昆虫を専門に研究されています。
今回は著書『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』(幻冬舎新書)をもとに、丸山さんが携わってきた、研究の世界をご紹介していきます。
微塵ほどのハエにも違いを見出す分類学
本書の原著となっているのは、東海大学出版会(現在は東海大学出版部)から2012年に出版された『アリの巣をめぐる冒険』です。丸山さんが行って来た研究や野外調査、半生などがまとめられた一冊でした。今回発刊の本書は、12年の歳月を経て、補足や訂正、最新の研究成果や発見などを改めてまとめ直した、所謂アップデート版といえるかもしれません。丸山さんは、昆虫の研究のなかでも、とくに“分類”という研究を中心に行っています。たとえば人にたとえると、「哺乳類霊長目(サル目)ヒト科ヒト属ヒト、学名はホモ・サピエンス」という分類になります。本書のなかで、昆虫の分類について「大部分の研究では、微塵ほどのハエさえも、分類学者はトラとイエネコを区別するくらいにはっきりと見分けている」としています。
パッと見ではその違いがわからない昆虫も、毛の密度や触覚の微妙な形の違い、顕微鏡で見なければわからない模様などで細かく分類が分かれているのです。この分類を行うために、指先に乗る程度の小さな昆虫を顕微鏡で眺め、脳外科医でさえ驚くような繊細な解剖をし、それを図として起こすなどのさまざまな調査研究が必要なのです。
世界各地の野外調査を経てアジアを代表する研究者へ
丸山さんは、こうした昆虫の分類学の分野のなかで「アジアの第一人者」と呼ばれています。本書では、当時修士1年生だった丸山さんが、どういった経緯で研究をスタートさせていったのかが語られています。第1章のタイトルは「好蟻性昆虫学ことはじめ」。「好蟻性昆虫」とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、つまり「アリたちと“共生”する昆虫」のことです。アリの巣をよく観察していると、実はアリではない生き物がアリ社会のなかで生活していることがわかります。丸山さんはこの「好蟻性昆虫」に着目し、研究を進めていきます。
アリそのものの生態や種類、そして数多くの好蟻性昆虫たち。野外調査を行った場所は日本にとどまらず、極東ロシアに韓国、マレー半島、タイ、ボルネオ、南米のエクアドルやペルーなど世界各地に広がります。現地の人の協力も得ながら、各地の生態系のなかで、独自の生態を持ったアリとその仲間たちを見つけていくのです。先に挙げた細かな研究が必要なのはもちろん、まだ見ぬ分類の昆虫にめぐりあうという幸運も重要です。求める昆虫がなかなか見つからないこともあれば、苛酷な環境での観察を強いられる場面もあります。
続々と出てくる種の名前、属の名前。そして、それらの生物が似ているところ、異なるところ。丸山さんの研究半生を追っていくと、わたしたちが何の気なしに見ていた地面の下はこんなにも多様な生物たちであふれているのかと感心すること必至です。
三つ子の魂と使命感が研究活動の背中を押す
「おそらく3歳の夏だったと思う。近所の子供と一緒に商店街の空き地で遊んでいて、そこで見つけたコカマキリが私にとっての初めての昆虫だった。」本書の第4章でそう語る丸山さんは、まるで未知との遭遇を果たしたかのように、コカマキリに強い衝撃と恍惚感を受けたのだとか。まさに「三つ子の魂百まで」という言葉に相応しく、現在に至るまでその情熱を昆虫に注いでいます。
最初の出版から12年。丸山さんの活動はその幅を広げ続けています。新しい書籍の執筆に、博物館で行われる展覧会の企画・監修、「子ども科学電話相談」など枚挙に暇がありません。丸山さんは「分類学にはさまざまな意義があるが、その一つに生物多様性の理解がある」と記しています。「生き物の多様性とそのすばらしさを伝えたい」という思いが、昆虫と出会った原体験とともに研究活動を続ける丸山さんの背中を押しているようです。
本書を片手に、子どものころの気持ちを思い出しながら、昆虫たちの世界に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
<参考文献>
『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』(丸山宗利著、幻冬舎新書)
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344987289/
<参考サイト>
丸山宗利研究室のWebサイト
https://myrmecophiles.com/
丸山宗利さんのX(旧Twitter)
https://twitter.com/dantyutei
『アリの巣をめぐる冒険 昆虫分類学の果てなき世界』(丸山宗利著、幻冬舎新書)
https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344987289/
<参考サイト>
丸山宗利研究室のWebサイト
https://myrmecophiles.com/
丸山宗利さんのX(旧Twitter)
https://twitter.com/dantyutei
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