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DATE/ 2024.10.23

命の危険も!低体温症はこんなときに起きる!

低体温症と冷え性はまったく違うもの

 寒さを感じる症状といえば、冷え性と低体温症がありますが、このふたつの違いをご存知でしょうか。両者の違いは次のようなもの。

 冷え性:主に手足の指先や脚などが冷える症状。寒さで血管が収縮し、末端まで血液が巡りにくくなると発症する。寒さを感じるのは部分的で、体の中心部分は通常の体温であることがほとんど。

 低体温症:全身が冷えて体温が下がる症状。寒さ、体力低下、ストレスなどで体温が上がりにくくなると発症する。体の中心部分の体温が36℃~35.5℃以下まで下がっており、全身に寒さを感じる。

 このように、低体温症は体の中心部分の体温である深部体温が下がっている状態なので、動作が鈍くなったり意識を失ったりなど、脳を含んだ全身に症状が現れます。無自覚のうちに進行することもあり、体力が弱い高齢者などは発症リスクが高いです。低体温症による凍死者は熱中症による死者より多いという統計もあり、そのうち約8割を65歳以上の高齢者が占めています。「雪山での遭難」のような非日常的シチュエーションでなくても、低体温症で凍死するケースは珍しくありません。命に関わることもある、注意が必要な症状なのです。

低体温症で起きる症状は?

 具体的に低体温症ではどのような症状が出るのか、さらに詳しく見ていきましょう。

 体温36℃~35.5℃程度(初期):寒さを感じて震えが出始めます。動作が鈍くなり、感覚が麻痺します。慢性的にこのレベルの低体温症になっているケースもあり、疲れがなかなか取れなくなったり、免疫力が低下して風邪をひきやすくなったりします。

 体温35℃~34℃程度(軽度):安定した歩行ができなくなり、ふらついたり転倒したりします。意識障害も出始め、思考能力や判断力が低下して熱にうなされているようなうわごとをつぶやくようになります。

 体温34℃~32℃程度(中度~重度):逆に震えが少なくなり、ほとんど歩けなくなります。昏睡状態に陥って意識を失ったり、意識があっても会話が成立しなくなったりします。体温が31℃以下になると意識はほぼなくなり、非常に危険な状態になります。多くの場合は、体温が28℃以下になると亡くなってしまいます。

 体温は大切な生命維持装置といえます。しかし、低体温症はゆっくり進行して気づきにくいケースもあります。以上のような症状が現れたら、低体温症の可能性を考えてみてもいいでしょう。

こんなときには特に注意を!

 先にお話したように、低体温症は日常生活でも発症します。高齢者はもちろん、体力や免疫力が弱い赤ちゃんなども普段から低体温症に気をつけるといいでしょう。また、健康な人でもストレスや急激な体重減少があると低体温症の発症リスクが高まります。低体温症は身近な症状であることを忘れないでください。

 低体温症の症状が見られたときは、初期症状ならまずは暖房や厚手の上着などを使って体を温めましょう。温かいスープやお茶を飲むのも、体の内部を温められるので効果的です。ふらつきがなければ軽い運動をするのもよいでしょう。意識を失っている場合は、揺さぶると不整脈を起こすおそれがあります。乱暴に動かさず、乾いた上着などで温めながら救急車を呼びましょう。

 そして、気をつけたいのが災害時です。台風や豪雨などで濡れてしまうと、体温が急速に失われます。災害対策というと水や食料の確保が浮かびやすいですが、人間は水なら72時間、食料なら1週間なくても生きられる一方、低体温症になると3時間しか生きられません。災害を生き延びるなら体温の確保を水や食料より優先したほうが生存確率は上がるのです。

 ちなみにスタッフの中に、2019年の台風19号で避難所に行った際、移動中に濡れてしまって低体温症になりかかった経験がある者がいます。避難所の毛布が少なかったため、自分の分は遠慮し、持参したバスタオルをかけていたのですが、震えが止まらなくなったとのこと。このときは家族が持参したバスタオルを借りて事なきを得たのですが、もっとしっかり対策しないと大変なことになると反省したそうです。

 低体温症は日常生活でも災害時でも無視できません。ぜひ、普段から対策できているか確認してみてください。

<参考サイト>
・DyDo 「冷え性」よりも危険な「低体温」
https://www.dydo.co.jp/quality_health/health/35.html
・シチズン・システムズ株式会社 体温が低いと何が起こる?要注意の症状や原因と対処方法とは
https://www.citizen-systems.co.jp/health/column/article/article_12.html
・MSDマニュアル家庭版 低体温症
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/25-外傷と中毒/寒冷障害/低体温症
・日刊SPA! 知らないと死ぬ!人間が生きるために「水、食事よりも必要」な最優先事項とは
https://nikkan-spa.jp/1992375
・NHK 荒川にも“決壊”リスクが…2019年台風19号で検証
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/select-news/20201012_01.html
川口 拓 (著)『災害からテロ、ミサイル攻撃まで まさか!?の非常事態で「死なない技術」』(扶桑社ムック)

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西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授