テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.05.06

名言には「パクリ」が多い!?

 「パクリ」批判が厳しい世の中、ネット上では「元ネタ探し」もブームになっているようです。でも、そもそも「パクリ(ぱくり)」ってちゃんとした日本語?まずは辞書を調べてみることにしました。

「ぱくり」の現代用法が生まれたのは2000年代?

 最初に開いたのは、三省堂・新明解国語辞典第四版。[ぱくり]の二番目の語釈として、「商品などを(すばやく)盗み取ること。また、手形などをだまし取ること」とあります。

 エンブレム問題などの用法とは少し違いますね。そこで大辞林第三版をみると、「ぱくること。特にアイデアなどを剽窃(ひょうせつ)すること」とあります。新明解は1995年、大辞林は2006年の改訂なので、その間のどこかで「アイデアをぬすんでつかうこと」が「ぱくり」と認められた(?)ことがわかります。

「ぱくり」は、軽い気持ちでこっそりするから悪いのか

 堂々と引用すればいいものを、「軽くこっそり」盗むからいけないのでしょう。ネット時代、コピペが手軽になった現代だからこそ、新しい情報は一瞬にして大量にコピーされますが、引用や「元ネタ」の大切さはいうまでもありません。

JFKの就任演説を、覚えていますか

 その代表例として「ケネディ演説には元ネタがあった」ことを政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教先生が教えてくれました。

 ここで「ケネディ演説」と呼ばれているのは、1961年1月20日のケネディ大統領(JFK)就任演説。「わがアメリカ国民諸君、国家が諸君のために何を成し得るかを問わず、諸君が国家のために何を成し得るかを問いたまえ」の名文句は、今でも覚えている人、繰り返し引用する人が絶えません。

 なんとなく聞き覚えのある言葉なので、「もともとはケネディのセリフだったのか」と逆に驚いた人も多いのではないでしょうか。

いい話には元があるのだ

 この演説の「元ネタ」をJFKが仕込んだのは、ハーバード大学に進学する前のチョート・スクール(現・チョート・ローズマリー・ホール)というプレップスクール時代だと言われます。JFKが在籍していた頃の校長先生が「チョートが君たちに何をするかではなくて、君たちがチョートに何ができるかを問いなさい」と話していたことが、記録に残っているのだそうです。ちなみに、プレップスクールというのは、アメリカのエリート層が行く全寮制の教育機関のこと。

 また、さらに元をたどれば、校長自身がハーバード大学にいた頃に、「若者諸君、自分の母校に求めるのではなく、自分が母校に対して何ができるかを問いたまえ」と述べたことも記録されています。「いい話」は繰り返されるから定番になり、伝統となっていくのですね。

会社で上司に言われたら

 今度、会社で上司から「会社が何をしてくれるかではなく、自分が会社に何をできるかを考える。そこが伸びる奴と伸びない奴の違いなんだよ」とお説教されたときには、JFKの話を思い出してみましょう。「パクリと元ネタ」「剽窃と伝統」の違いがわかれば、本当の意味で伸びるチャンスになるかもしれません。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員