●“Japan is Back”を実感した安倍政権1年目
安倍(晋三)さんが今回総理大臣になられた2012年12月の2ヶ月ぐらいあとに、ワシントンにいらっしゃいました。そのときに、あるシンクタンクで演説をされたのですが、テーマは、“Japan is Back”でした。“Japan is Back”、つまり「日本は復活してきた」と言われたのです。
ぼくはそれを聞いていたのですが、いや、ちょっと待って、“Japan is Back”というのは少し尚早ではないかと思いました。
たしかに、“Abe is Back”だけれども、まず、いつまで総理大臣を続けられるのか。ワシントンへ行ってオバマ大統領に会った総理大臣は、実は彼が5人目。麻生(太郎)さんに始まって、 鳩山(由紀夫)、菅(直人)、野田(佳彦)、そして今回の安倍さんです。
ですから、オバマさんから見れば、「また日本の新しい総理が来てくれるけれども、いつまで総理なのか。また1年で終わるのではないか」と感じてしまうわけです。 安倍さんは、日本の経済を抜本的に改革すると言うけれども、本当にそれができるのか、非常に疑問を持っていたのです。
自民党が政権を取り戻した2012年12月の選挙ですが、実はその3年前、民主党に大敗したときの得票数より少なかった。それゆえ、自民党はすばらしいとか、安倍さんにどうしても総理大臣になってほしい、と国民が思っていたということではなく、とにかく民主党に対しての失望感が非常に強かったのです。それで野党がばらばらになり、自民党は運よく勝ったわけです。
そのとき石破(茂)幹事長が、なかなかいいことを言うなと思ったのは、選挙結果が出た夜にテレビに出られて、「この選挙はわれわれ自民党が勝ったのではなく、ただ民主党が負けただけの話であって、支持を得られるかどうかは、これからの問題である」と話されたのです。
日本人はそういう謙遜する言葉が好きですが、本当にそのとおりです。そう考えると、この1年3ヶ月ぐらいで“Japan is Back”でしたね。国民にも「これで経済がよくなるのではないか」という期待感があり、外国の投資家も“Japan is Back”だから日本株を買おうと、日経平均が何年ぶりかの高い水準になったりしています。ぼくは、その点で 安倍さんを非常に評価します。
●アベノミクスへの期待感が失望感に変わりつつある理由
ただ、それは今までのことであって、ではこれからアベノミクスはどうなるかということになると、また疑問視する人が急速に増えているのです。
今年の1月になってから、外国人の日本株を売る動きが強まっているでしょう。それで、株価が下がっていますよね。外国から見れば、問題は、「いわゆる3本目の矢がないのではないか」「成長戦略・構造改革は、大したことはないのではないか」ということ。つまり、過剰な期待感が、今はどうも過剰な失望感に変わりつつあるということです。
ぼくは、その責任が安倍総理自身に非常にあると思います。3本目の矢を売り込みすぎたからです。
というのも、日銀がインフレターゲットをもって動き出せば、結構ショートターム、すっぱりとすぐに、すごいインパクトを与えますよね。あるいは、政府が借金をして国債を出し、政府の予算を増やしてばらまけば、それはやはり成長につながります。ただ、3本目の成長戦略・構造改革というのは、いくらなんでも、ある程度の時間がかかることです。にもかかわらず、「3本目の矢で日本の経済はよくなる」という、ある意味で非現実的な期待を与えてしまったわけです。「構造改革」という言葉を日本人が使う場合、外国人が聞いて、どういう印象を受けるかということを、ぼくはもう少し考えるべきだと思います。
ぼくの友達の中にはアメリカの投資家であるウォールストリートの友達も結構いるのですが、彼らは、「安倍さんがリフォームをする」と言うのです。要するに、日本の経済をアメリカの経済システムのようなものにする。移民政策を抜本的に変えて、たくさんの外国人を入れる。あるいは、労働市場をすぐ首にできるようなやり方に変える。そうしたらアメリカのようになる、ということですが、見ていると、思い切った移民政策もなければ、労働者である社員をいつでも首にできるようなことも日本はしていません。そうしたら、がっかりするでしょう。
●日本型資本主義とアメリカ型資本主義は違う
ただ、前にここで話したことですが、日本は、外国のいろいろなやり方を取り入れるけれども、それを日本的なものにします。外国人はそのことがなかなか理解できません。明治時代以来、日本の近代化イコール日本のアメリカ化、欧米化ということですが、150年も経って、日本はアメリカと同じようになったかというと、少しもそうなっていません。
たし...