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安倍首相を「右寄り」に見せているのは「歴史問題」

いまアメリカが日本に問う(1)靖国参拝と歴史・外交認識

ジェラルド・カーティス
政治学者/コロンビア大学名誉教授
情報・テキスト
安倍首相の靖国参拝は世界に衝撃を与えた。さらに側近が連発する問題発言、また「なぜ外国が口をはさむのか」と疑問を口にする若者たち。カーティス氏は、そこに日本ナショナリズムの象徴を見る。
時間:12:54
収録日:2014/03/06
追加日:2014/03/17
カテゴリー:
≪全文≫

●安倍首相の靖国参拝と、アメリカの「disappoint」 

まず、今の日本とアメリカの関係の現状について分析してみます。
ご存知の通り、安倍首相が靖国参拝した結果、アメリカ側がそれに対して「失望した」というコメントを出しましたが、「disappointed」なので、「失望」とは大分ニュアンスが違ってきます。「失望」という言葉では少し強すぎるので、「懸念」ですね。
同盟国に対して、公の場でそういう批判的な言葉を使うのは、よほどのことがない限りあるべきことではないと思いますが、それだけアメリカも非常に困っているということです。日本と隣国、とりわけ中国や韓国との関係があまりにも悪化すると、アメリカも困る。そして、日本側には挑発的と見られるような行動をしてほしくない。それが、靖国の問題なのです。
しかし、日本とアメリカの関係というものは、基本的には非常に強いです。アメリカのアジア政策にとっては、日米同盟がやはり一番重要なものである。それはオバマ政権だろうとブッシュ政権だろうと、どの政権であっても大きな変わりはないと思います。

●「オバマ政権でなければ…」の見方は、「illusion」

そこで一つ気になるのは、安倍政権で彼の周辺にいる方々に、「今の日米関係が少し問題になっているのは、民主党のオバマさんが大統領だからであって、共和党だったらこういうことにはならなかった」と言う自民党の議員がいますが、それは大きな「illusion(幻想)」ですよ。
というのは、民主党政権であろうと共和党であろうと、あるいはオバマさんの代わりにジョン・マケインさんが大統領になったとしても、アメリカが北東アジアの国際情勢に向ける眼は変わらないからです。
北東アジアの情勢は、非常に流動的な状態です。尖閣や南シナ海の問題について、中国が非常にアグレッシブな態度を取っているものですから、アメリカは中国に対する牽制をする。しかし、それは中国を封じ込めるためではなく、なんとかうまく一緒にやっていきたい思いがある。そういうことをやろうとしているときに、例えば日本が靖国参拝をする。あるいは歴史についての発言で「南京事件はなかった」とか、韓国に対して「慰安婦は全然強制的ではなかった」と言う。すると、それによって北東アジアの情勢がより緊張する。それは、民主党だろうと共和党だろうと、やはり好ましくないわけです。
ですから、日本は「民主党だから」「オバマだから」ではなくて、国際政治の中の変化によって考えたほうがいい。アメリカには、アメリカの利益なり中国に対する考え方があるが、それと現・安倍政権の考え方は、必ずしも一致していない。それをどのようにうまく調整するか。それこそが、大きなテーマであるはずなのです。

●安倍首相を「右寄り」に見せているのは、「歴史問題」

現時点では、二つ申し上げたいことがあります。一つは、外国から見たときに、安倍さんがどうも非常に右寄りの人だと映っている点です。
彼のやることは非常に右寄りだと言われます。しかし、具体的な外交政策を見る限り、野田政権が存続していたとしても、今の政策とそれほど大きな違いはなかったのではないかと、私は思っています。防衛予算も少しは上げる方向だったし、「集団的自衛権を認めるべきだ」という考え方は、民主党の中にも結構ありました。慰安婦の問題や独島(竹島)問題をめぐっての、野田さんと李明博さんの関係も、決してよくなかった。安倍さんが追求しようとしている外交政策と、民主党のときに言われた動的防衛、防衛の基本戦略は、そんなに変わらないのです。
安倍さんが今やっていることは、アメリカから見ればありがたいことで、ずっとやってほしかったことをやっています。ただ、彼の本当の「意図」はなんだろう、本当は何をやりたいのか。これに対する不信感は、アメリカにもあります。それは、やはり「歴史問題」が原因なのです。

●側近の問題発言と首相のフォローが、日本イメージを下げている

彼の側近の方々が、とんでもない発言を繰り返している。非常に問題になることを言ったときに、安倍さんは「いや、あれは政府を代表して言っているのではなくて、個人の立場で言っている」とおっしゃいます。それはそうかもしれないけれども、彼はその中身を否定はしない。否定しないというのは、それを肯定していると見られるわけです。
だから、アメリカから見ると、百田尚樹さんとか茂木(敏充)さん、あるいは側近の衛藤晟一さんや萩生田(光一)さんなどが言っていることが、安倍さんの本心だと思われるわけですよ。それが、今の問題です。
今回、安倍さんが総理大臣になったときには、第1期目と違って「お友達内閣」をつくらなかった。「よかった。大分成長した」と評価されたのですが、どうもまた「お友達」がたくさん周辺に集...
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