●「見えない」という精神医療の難しさ
ひもろぎ心のクリニックの渡部と申します。よろしくお願いします。
次は、目に見える精神医療ということで、精神科外来における近赤外線スペクトロスコピーというお話をします。
私は医者になって27年ですが、われわれ精神科というのは、言葉だけを話していて何も機械がいらないのではないかと、最初はそのように思われていました。そのような中、気分障害の患者さんがどんどん増えて、ここ10年で倍増していると言います。
精神科というのは、非常にあいまいで分かりづらいと、僕自身も精神科になった時に思っていました。精神疾患とは概念しかなく、目に見えないと考えられています。例えば、うつ病や躁うつ病、統合失調症やパニック障害がありますが、その違いを患者さんに明確に説明するのは非常に難しいですし、また同時に、ご家族にもその疾患を説明しても、ほとんど理解していただけないというのが現状ではないかなと思います。僕が精神科医になってその病気を説明するときにも、こちらは教科書を読んでいますから、「こういう症状とこれとこれがあるからあなたは病気です」と言っても、患者さんはポカンとして病識がないわけです。
●病態が目に見える身体科
一方、体の疾患というのは、がんにしても心筋梗塞にしても、脳梗塞、肺炎にしても病態が目に見えます。例えば、がんならばCTのスキャンを撮ってみて、そこに異常な影があれば「これはがんかもしれない」ということになります。心筋梗塞であれば、心電図を撮る、あるいはエコーを撮る、シンチ(シンチグラフィー)をするということで見えるわけです。脳梗塞の場合もCTを撮れば分かりますし、感染症、肺炎であれば、胸のレントゲンを1枚撮ればすぐ分かるということで、病態が目に見えているから患者さんと一緒に治療に取り組みやすいというのが、身体科ということになると思います。
実際ここにCTによる画像ケースがあります。上は1年前に撮ったある患者さんのCT画像ですが、影がありません。しかし、1年後の検査で、矢印に示すような直径2センチぐらいの肺がんと思われる所見が見つかりました。これはもう、目に見えて初めて分かって、こういう患者さんには、「じゃあ、治療しましょうね」となるということは、明らかです。
●精神科クリニックの10年前と今
これは、わ...