混沌のシリア情勢を読む
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
ロシアの軍事干渉はイランからアサド政権を守るため
混沌のシリア情勢を読む(2)ロシアの大国戦略
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
シリア問題へのロシアの干渉の本格化は、一体何を意味するのだろうか。シリア軍隊救出、アサド政権救出がうたわれているが、何から、そして何のためにかは明らかではないと、歴史家・山内昌之氏は言う。前回に引き続き、中東干渉に潜むロシアの大国戦略について、さらに歴史的な見方で掘り下げていただく。(全4話中第2話)
時間:11分14秒
収録日:2015年10月5日
追加日:2015年10月26日
カテゴリー:
≪全文≫

●シリア軍事干渉で、ロシアは何を守りたいのか


 皆さん、こんにちは。今回は、前回に引き続きシリアに対するロシアの空爆の意味について、さらに続けて考えてみたいと思います。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のシリアへの軍事干渉は、アサド政権を救うためのものだと言われています。兵員の欠如や補給の欠乏など、さまざまな点で活力を失い、国防軍としての能力を失ったシリアの軍隊を救い、ひいてはシリアのアサド政権を救うためだというのです。しかし、それではいったい誰から、何のためにこの政権を救うのかということについては、実はあまり語られていません。

 常識的に考えれば、IS(イスラム国)の脅威から救うのでしょうし、シリア国内の反アサド各勢力の脅威から救うということなのでしょう。ここまでは常識的な理解ですが、私はもう一つ別な側面があると考えています。今回のプーチン率いるロシアの軍事干渉は、アサド政権を別な脅威であるイランから守り、ロシアの中東権益を守る意図が潜んでいるという見方です。


●イランがアサド政権救済に向かう理由


 しかし、皆さんはこうお尋ねになるかもしれません。「イランは、シーア派の部隊であるヒズボラや革命防衛隊などを通して、アサド政権を同じように助けているではないか。そういう意味では、イランはロシアと協調しているのではないか」。それは、至極もっともなお尋ねであると思います。

 その理由として私が考慮したいのは、まず第一に、イランがこれまでアサド政権を救うために費やしてきた軍事・財政力が260億ドルに上ると伝える資料です。この260億ドルを費やした代償は何かということです。どこの国も、全くの代償抜きにただで金をくれるわけはありません。そこには必ず何らかの代償が伴うわけです。

 イラン側に考えられる代償は、シリア国内のシーア派の救出です。スンナ派の多数派(反アサド政権)によって支配されている地域のシーア派の住民たちを救い出すために、自分たちシーア派やイランの別働隊、革命防衛隊やヒズボラが占領している地域のスンナ派の住民を、交換で救う。すなわち、一種の住民交換(population exchange)あるいは領土の交換(territory exchange)を、イランは画策しているのではないかといった観測が出ています。

●イランの行為への警告とアサド...


スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
岸信介と日本の戦前・戦後(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
井上正也

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫