混沌のシリア情勢を読む
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なぜシリア内戦でアサド政権は持ちこたえているのか
混沌のシリア情勢を読む(3)シリア内戦の特異性
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
歴史学者・山内昌之氏が、シリア情勢を「内戦」という観点から語る。山内氏は「内戦」の定義づけ、特徴検出を行い、そのいずれにおいてもシリアは「内戦」状態から外れていると指摘する。シリア情勢の特異性とは? また、その特異性はどのような危険をはらんでいるのか? (全4話中第3話目)
時間:8分00秒
収録日:2015年10月5日
追加日:2015年10月29日
カテゴリー:
≪全文≫

●「内戦」の定義が当てはまらないシリア


 皆さん、こんにちは。今回は、ロシアが空爆によって本格的に内政に干渉を始めたシリアについて、再び考えてみたいと思います。

 シリアで何が起きているのかということを定義するのは、前回、前々回でも触れましたが、なかなか簡単ではありません。それは、アサド大統領という独裁政治体制に対するアラブの春によって生じた人民たちの反抗、蜂起として始まったわけです。そして、そういう反アサド勢力の動きが内戦へと変形した、変わってしまったというのが通説です。しかし、考えてみますと、内戦という言葉はなかなか厄介な言葉であり、シリアの状況を完全に補足する、完全に定義するものではないことは、最近中東問題の現地の識者なども語っていることです。

 内戦というのは私の考えでは、国民の積極的な分子、国民の中が少なくとも二つ以上の陣営に分かれて戦うことです。しかし、シリアにおいてはこういう定義は当てはまりません。


●均衡した二勢力のシリア内戦と見える理由

 
 日本人であれば内戦といいますと、古代史においては、天智天皇が亡くなってその子どもで後継者の大友皇子と、天智天皇の弟の大海人皇子(後の天武天皇)が、皇位継承をめぐって争った壬申の乱がすぐに思い浮かびます。あるいは、南北朝という日本史未曽有の内戦です。北朝の持明院統と南朝の大覚寺統との間の諸勢力が、全国的な規模で内戦を繰り広げたことを思い浮かべます。非常に短時間ではありましたけれども、日本の近代の陣痛を経験した幕末、明治にかけての戊辰戦争も紛れもない内戦でありました。

 しかし、こうした内戦的状況は、大きく分けてやはり二つの陣営がほぼ拮抗する勢力を持って対峙し合って戦うこと、これが内戦でありますが、現在のアサド体制と反アサド体制というこの内戦は、なかなかこの古典的な定義に当てはまらないのではないかと思います。確かにアサド体制は、アラウィー派というシーア派の一派、分派との間で支持基盤を持ち、キリスト教徒の共同体の間でも民衆的な基盤を持っています。しかし、この両勢力は、国土の80パーセント近くの住民を占めているスンナ派のアラブ人たちに対しては、著しく均衡を欠いた勢力であり、この二つの勢力間の争いが、いわば古典的な意味での内戦と言えるかどうかは、大変疑問なのです。

 ここであたかも内戦であるかの...

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