●「山の老人」に操られた中世のアサシンたち
皆さん、こんにちは。
欧州と中東にまたがる複合危機を生み出しているテロと戦争の問題は、グローバルな危機になる可能性を秘めている、あるいは、既にそうした方向に向かっている危険性さえあります。その中で、こうしたテロや戦争の当事者たちは、一体いかなる存在なのかということについて、少し解釈を試みてみたいと思います。
欧米の学者の中には、彼らを「アサシン(Assassin)」と呼ぶ人がいます。アサシンとは英語で「暗殺者」という意味ですが、これは実はもともとアラビア語で、アラブに由来する言葉でした。中世のシーア派の一分派にニザール派(ニザーリー)という集団があり、この集団に対して、アラビア語で「ハシシーン」という言葉が寄せられました。このハシシーンがなまって、ヨーロッパでは、特に英語の場合はアサシンと名付けられるようになったのです。
なぜこのような用語になったかと言いますと、「山の老人」とあだなされるニザール派の絶対的な指導者ハサーン・サバーハ(ハサーネ・サバーハ、ハサン・サッバーフ)と呼ばれる人物がハシーシュ(麻薬)を若者に与えて、その麻薬の力で陶酔させ、陶酔状態のもとで若者を刺客に仕立て上げて各地に派遣し、人々を暗殺していったという伝承が残っているからです。そこから「ハシーシュ(麻薬)を使う暗殺者」という意味で、アラビア語のハシシーンという言葉がアサシンになまって伝えられたというのです。この話はマルコポーロの『東方見聞録』などにもありますし、その前にはダンテの『神曲』などにも通じるヨーロッパ人のイスラムに対するイメージの一つでした。
●近世以降、アサシンの殺害行為は無差別化した
ところが、このアサシン、ハシシーンたちが実際に暗殺したのは、ヨーロッパから来た侵略者である十字軍、あるいは、その土地のトルコ人がつくった王朝であるセルジューク朝などの高い位にある政治や軍事の指導者たちであって、現在のIS(イスラム国)のように一般の兵士はおろか一般の市民たちも含めて無差別な殺害行為をしたわけではありません。むしろ、今日のISや欧州人テロリストの特徴とは、アサシンのように限定された暗殺を行う暗殺教団だという点にあるのではないのです。
また、これは最近、イスラム評論家の一人であるアミール・ターヘリーという人...