「テロ」とは何か
この講義シリーズの第1話
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
テロ抑止力としては役立たない「対話と交流」の協調路線
「テロ」とは何か(2)「自由」はテロの遠因をなしたのか
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ISに触発された「欧州人テロリスト」の存在は、不気味で得体が知れない。しかし、世界史と国際情勢の両面から中東情勢を読み解いてきた歴史学者・山内昌之氏は、彼らの誕生した遠因を「ヨーロッパの育んできた『自由』そのものにあるのではないか」と見ている。その入り組んだ関係性を知ることは、私たちが「テロとは何か」という問いを読み解くための一歩となるのではないだろうか。(全4話中第2話)
時間:9分11秒
収録日:2016年4月5日
追加日:2016年4月28日
≪全文≫

●なぜニヒリズムからテロリズムへの変容が起こったか


 皆さん、こんにちは。前回は「ヨーロッパ人テロリスト」ともいうべき存在に触れましたが、しかしながら、ヨーロッパで生まれ育ち、フランス語やドイツ語、英語を母語として育った人々が、なぜテロに引かれていくのか。今回はそうした点について考えてみようと思います。

 彼らの内面に立ち入るのはなかなか難しいのですが、それを一種のニヒリズムから明白なテロリズムへと変容させていく遠因は、欧州をはじめ民主主義社会の「自由」そのものにあると、私はあえて考えています。

 ヨーロッパには、プラトンからイギリスのジョン・スチュアート・ミルを経て、最近のアイザイア・バーリンにまで連なる系譜があります。日本では、福澤諭吉にも影響を与えました。このような西欧の思想家たちは、「自由と権利」ないし「義務と責任」が互いに相補うものであり、相互性の中で動くことを緻密に組み立て、政治においても「自由論」として、これを援用してきました。

 ところが昨今、こうした自由論は非常に評判が芳しくなくなっています。あるいはそのような力が働いているといってもいいでしょう。


●伝統の「自由論」に対するマルチ・カルチュラリズムからの批判


 それは、こうした自由論を生み出してきたイギリスやフランスがかつて植民地主義や帝国主義で世界を支配したことに対する批判です。各地を支配し、地域独自の発展を遅らせた植民地主義や帝国主義の責任、そしてその悪しき遺産や伝統をどう考えるのかと迫る思潮を「ポスト・コロニアル批判」と呼びます。それはまた、「マルチ・カルチュラリズム(多文化主義、文化多元主義)」といわれる大きな流れになりました。これらの考え方は、伝統的な自由論が持つ偽善性について批判を繰り返してきました。

 しかし、「あらゆる文化は皆、同じレベル(次元)にあり、そこに優劣は存在しない」と考える多文化主義、あるいは文化相対主義の主張を、もし極度に政治化するならば、ヨーロッパ内部から一つの大きな潮流を生み出すことにつながります。それは、「自由論」とはまったく別のところにつながるものです。

 それが引いては、イスラーム自身の歴史や原郷の発見を阻害し、植民地化した米欧に対する攻撃がいかなるものであれ正当化される、少なくとも思想としては正当化されるという傾向をも生み出して...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
「中華民族の偉大な復興」と中国外交(1)外交姿勢・前編
四字熟語で見る中国外交の変化
小原雅博
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博

人気の講義ランキングTOP10
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦