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●ロボット自身が行動を決める「自律型ロボット」
自律型海中ロボットのパフォーマンスの一つをビデオでお示ししたところで、自律型海中ロボットは一体何かということを、もう少し詳しく説明したいと思います。
自律型ロボットの定義は、周囲の状況と自分自身の状態に応じて行動を変えていくことです。ロボット自身が、センサからのデータに基づいて決めていく。これが「自律型」の定義です。ここで重要なのは、誰かに「こうしろ」と言われるのではなく、自分の持っているセンサによるデータから判断すること。それが自律型ロボットの基本であり、海の中で動くということです。
重要なのは、センサがあって、ロボットがあって、コンピュータがあって行動を起こす。そのセンサ・データの内容によって行動を変えていくことです。構成としては、五感、頭脳、運動器官が構成要素です。このすべてをトータルとして、ロボットは動きます。
ですから、頭脳だけを研究してもロボットはできません。いいセンサがなければ駄目です。いいセンサがあっても、頭が悪ければ駄目。頭がよくても、動かすところの手足がきちんとしなければ駄目。と、こういうことになります。
私が言っている「ロボット学」とは何かというと、「トータルでものを考えないといけない」ということであり、ロボットの制御工学ではないということです。
●炊飯器や洗濯機の働きは「自動」か「自律」か?
そこで、「自律:オートノマス」というものを考えてみましょう。似たような言葉ですが、「自動:オートマティック」、「自律:オートノマス」、「自立:インディペンデント」、「知的:インテリジェンス」という四つの言葉が、ロボットにはよく使われます。この四つをきちんと区別する必要があると思います。
一番目のオートマティック。これは割とどこでも出てくるのですが、あらかじめ用意された作業手順に従って、ボタンやスイッチで動作をするということです。スイッチを押せば、自動的に動き出しますという感じです。
自律は、先ほど自律型をセンサ・データで説明しましたが、外部からのコントロール(制御)から脱して、自分自身の立てた規範に従って行動することです。ですから、もちろんスイッチは誰かが入れるわけですが、その後の「どうしろ、こうしろ」は必要なく、全部終わりまでやってくれる。
いい例は、自動炊飯器です。自動炊飯器は、ボタンを押すと最後までやって、ちゃんとご飯ができてくれるという、非常に自律的なものになっているわけです。さらに自律性が高まれば、入れたお米が新米か古米かを区別して、温度を調節してくれる。そういうことができてくれば、より自律性が高まるわけです。
洗濯機も、最近は非常に自律性の高いものが出てきています。入れた服の量によって水の量を調整してくれたり、洗う回数を変えてくれたりするようになったのが、自律性の高さです。ただし、この場合は、自動的な動きの中に、ある程度の自律性があると言った方がいいかと思います。なぜかというと、電気洗濯機はセンサ・データに基づいて行動を決めているからです。
●「自立」と「知的」のロボット工学的な意味合い
次に、自立:インディペンデントです。自律と自立では響きは同じですが、意味が違います。
インディペンデントは、他の援助や支配を受けずに、自分の力で身を立てること。つまり、お父さんや母さんからお小遣いをもらって生活はしない。それから、お父さんやお母さんの言うことを聞くのではない。先日成人式がありましたが、「あなたは自立した大人になりました」と言われるのは、そういうことです。
しかし、自立した人がオートノマスかどうかは別です。つまり、社長に言われる通りのことをやっていれば、生活は自立しているけれども、行動はオートノマスではない。こういうふうになるわけです。
次に、インテリジェンス。「知的ロボット」というのは非常に重要な概念で、われわれが大学で研究しているのも知的ロボットです。インテリジェンスを研究するのはとても楽しいことだし、大学にとっても重要です。さて、この意味は前の三つとは違い、物事の理屈がすぐに理解できる能力があるということです。
つまり、ある事象が起こって、次に何か別の事象が起こったとする。その時に、前後関係を類推して「ひょっとして、これはこういうことだったのか」と理解することができるのを、「知的」というわけです。
例えば海に潜るとき、何度やってもうまくいかなかったとします。ところが息を吹きながら潜ろうとすると、自然に浮力が減って、うまくいく。そのことは誰に教えられなくても、潜りを自分で練習しているうちにできたりします。それができれば、その人は知的な人だ、と言われるわけです。


