●海水淡水化技術で水不足は十分解消するのではないか
参加者 私は、『Dr.コトー』で少し名が売れた、甑島という東シナ海の島で育ったので、周りはもう海しかないのです。この海の水を真水に変えるなどの技術とは、コストが高いのでしょうか。こういうことが普通にできたら、もう水のない世界の人も助かりそうだと、昔から思っていたのですが。
沖 先ほどの海水淡水化というのがそれです。昔はボイラーで燃やすのですね。ボイラーを燃やすと水だけ蒸発して、それを冷やしたときにできる真水を取っていました。しかし、これですと、下手をするとそれこそ1立方メートル当たり1000円ぐらいかかっていたのです。
それが、今は圧力と電気代が必要になりますが、逆浸透膜を使って、いろいろエネルギー回収などの工夫をして、世界最新の技術で大規模にやれば、1立方メートル当たり100~120円ぐらいでできます。それで十分、水が必要なところには入れられる状況になっています。
もっとびっくりするのは、農業用水です。飲み水用、水道水用はそれ(逆浸透膜)で良いだろうけれど、農業用水は無理だろうと思っていたのですが、スペインに行くと補助金が大量に入っていることもありますけども、その海水淡水化した水で園芸農業やっているのですね。単価はいくらか聞いたら、農家が払っているのは0.5ユーロぐらいですから、70~80円です。それを払っても、ペイするような農業が可能です。もちろんじゃーっと撒くのではなく、休閑灌漑ではなくて、スプリンクラーで根元のところに点滴するような、そういう高度な灌漑をするわけなのですが、そういうものと組み合わせれば、農業すら海水淡水化の水でできます。
実際に日本も、離島には小さな淡水化施設がいろいろな所で入っています。そういうところは、単価は高いのですが、国からいろいろ補助をしたりしてやっています。老朽化などの問題がありますので維持は必要ですが、十分にできています。
●東京都の地下水には大きな可能性があるのではないか
参加者 地下水を取ることを制限していた東京でも、最近は地下水が溢れてきて、地下鉄まで浮き上がって、適度に取らなければいけないと聞きます。また、地下水は、大体10メートルから100メートルぐらいの深さまでは水温が15度ぐらいで、冷暖房としての使用にとって、ものすごい可能性があると聞きました。その辺りの技術がまだ確立はされてないようですが、可能性はあるのではないかと思うのですが。
沖 まず、地下水はおいしいですね。飲み水だけでやるのだったら、たぶん地下水の方が味は良いのだと思います。その温度を使うという技術もありまして、実際、夏の間は冷房用に使い、冬の間は暖房用に使う。地熱を、地下水を通じて使うようなシステムがあります。
参加者 地下水そのものを使う技術もある。
沖 そうですね。そういう意味で言うと、それこそ新潟などでは、道路の雪を溶かすのに、地下水をがんがん使って流しています。消雪溝に流していると思いますが。そういう意味では、地下水を使った方が良いのです。
ただし、江東区に行くと、海抜マイナス3~4メートルの地域があります。あの地域は、最初からあんなに低かったわけではなく、江戸時代以来、地下水を汲み上げて使ったために、地盤が下がっているのですね。
そういう意味で、東京都は地盤沈下で非常に困ったので、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」的に、全面的に地下水の使用はふたをしました。工業用水として地下水を使っていたところにも、工業用水を安く供給するからそちらに転換しろと迫ったわけですね。そうやって、1975年ぐらいにぴたっと地下水を使わなくさせて、そこから逆に水位が戻ってきているのです。確かにご指摘の通りです。
それで戻ってきて、1975年より前に設計された上野駅や上野駅の新幹線の地下ホーム、あるいは東京駅の地下ホームなどは、少し形が分かりにくいですが、ペットボトルで説明すると、このようにホームがあり、地下水の水位はここ(ホームの下部)だったのが、こちら(ホームの上部)になりました。そうすると、浮力がかかるのです。浮力がかかって、これは浮くのかと思ったら、地下水の水圧がすごいのです。ホームに上向きに力がかかるので、床が壊れるのではないかというほどです。ということで、いま重しを置いたり、アンカーを入れたりして保っているという状況です。
そういう意味では、適切に利用した方が良いのではないかというのは思います。ただその反面、背景にはかなり政治的な議論があります。結局、地下水を使えばダムはいらないのです。ダムがいらない人は地下水を使えと言うという、住民運動vs行政のような背景もあります。一般論で言ったら、危険だと私は思いま...