●間接被害を減らすことが重要
大上 今回は、「水と災害」というテーマに移ります。先生は著作で、特に風水害への対策が重要だとおっしゃっていますので、その辺りのお話をお願いします。
沖 日本では、防災や自然災害に対する備えというと、まず地震を考えます。例えば、9月1日の防災の日は、関東大震災にちなんで設定されたものですから、その日は地震に対する避難訓練を行います。
一方、風水害に対しては、最近設備も十分に整いましたし、何より台風や集中豪雨の予測技術が上がってきましたから、人命が失われることはかなり減ってきましたが、戦後すぐは年間1000人、2000人、伊勢湾台風の時などは5000人ほどの方が風水害で亡くなっているのです。世界的に見ても、風水害での死者や経済被害の方が地震よりもはるかに大きいのです。もちろん地震は日本が十分に対処すべき災害なのですが、地震だけ考えていればよいわけではありません。
大上 ニューヨークを直撃したハリケーン・サンディなどは、約500億ドル、6兆円もの被害をもたらしたといわれていますね。
沖 そういう意味でいうと、先ほど申し上げた通り、日本もかなり設備が整ってきていますし、何より被害が大きくなりそうなハリケーンや台風などが来ることは数日前から分かりますので、人命を助けることはできるのですが、サンディの場合、物が壊れたり、浸水したといった直接被害と同じかそれ以上に、間接被害が大きかったことが特徴なのです。ウォール街の活動や地下鉄のオペレーションを2、3日止めることで失われた利益は決して少なくありませんでした。
最近は日本でも、どのような自然災害に対しても普段通りの暮らしを維持しようとするのは資金的に厳しい上、コストが掛かりすぎるということで、特にインフラ各社が方針を変えています。例えば、大雪が懸念されるときは前もって鉄道の便を半分にしたり、台風が来るときはある時間で鉄道の運行を打ち切るといったことを始めました。これは確かに防災的観点からするとよいのですが、経済的なロスは軽視できません。日本は今、1日当たり2兆円くらいのGDPを生んでいるわけですから、それを何日間か止めてしまったときのロスは大きいのです。これは、おそらく物のロスと同じか、それ以上になってしまいます。ですから、そういった間接被害を減らすことを考えなくてはなりませ...