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日本の風水害対策における課題とは?

水と地球と人間と~日本と世界の水問題(4)水と災害

沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
情報・テキスト
ハリケーン・サンディで、アメリカは500億ドルの損失を被ったといわれている。日本は、サンディ級台風に対してどのような対策ができるのか。水と災害について考える。地球規模の水循環と世界の水資源に関する研究の第一人者である東京大学生産技術研究所教授・沖大幹氏の語る「シリーズ・水と地球と人間と」第4回。(インタビュアー:大上二三雄氏/エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社代表取締役)
時間:09:17
収録日:2015/03/19
追加日:2015/11/23
タグ:
≪全文≫

●間接被害を減らすことが重要


大上 今回は、「水と災害」というテーマに移ります。先生は著作で、特に風水害への対策が重要だとおっしゃっていますので、その辺りのお話をお願いします。

沖 日本では、防災や自然災害に対する備えというと、まず地震を考えます。例えば、9月1日の防災の日は、関東大震災にちなんで設定されたものですから、その日は地震に対する避難訓練を行います。

 一方、風水害に対しては、最近設備も十分に整いましたし、何より台風や集中豪雨の予測技術が上がってきましたから、人命が失われることはかなり減ってきましたが、戦後すぐは年間1000人、2000人、伊勢湾台風の時などは5000人ほどの方が風水害で亡くなっているのです。世界的に見ても、風水害での死者や経済被害の方が地震よりもはるかに大きいのです。もちろん地震は日本が十分に対処すべき災害なのですが、地震だけ考えていればよいわけではありません。

大上 ニューヨークを直撃したハリケーン・サンディなどは、約500億ドル、6兆円もの被害をもたらしたといわれていますね。

沖 そういう意味でいうと、先ほど申し上げた通り、日本もかなり設備が整ってきていますし、何より被害が大きくなりそうなハリケーンや台風などが来ることは数日前から分かりますので、人命を助けることはできるのですが、サンディの場合、物が壊れたり、浸水したといった直接被害と同じかそれ以上に、間接被害が大きかったことが特徴なのです。ウォール街の活動や地下鉄のオペレーションを2、3日止めることで失われた利益は決して少なくありませんでした。

 最近は日本でも、どのような自然災害に対しても普段通りの暮らしを維持しようとするのは資金的に厳しい上、コストが掛かりすぎるということで、特にインフラ各社が方針を変えています。例えば、大雪が懸念されるときは前もって鉄道の便を半分にしたり、台風が来るときはある時間で鉄道の運行を打ち切るといったことを始めました。これは確かに防災的観点からするとよいのですが、経済的なロスは軽視できません。日本は今、1日当たり2兆円くらいのGDPを生んでいるわけですから、それを何日間か止めてしまったときのロスは大きいのです。これは、おそらく物のロスと同じか、それ以上になってしまいます。ですから、そういった間接被害を減らすことを考えなくてはなりません。

 また、温暖化が進んだ場合、途上国でどのような被害が想定されているかといえば、沿岸域被害、農業被害、健康被害などもありますが、一番大きいのはインフラ被害なのです。なぜなら、エネルギーの供給部分、例えば電線などが簡単に駄目になってしまうからです。土砂崩れがあると、水道管などの破損も考えられます。つまり、自然災害によってライフラインがすぐに損傷し、間接被害を生んでしまうのです。今後は途上国でも、その辺りの強化が求められていくと思います。


●課題は危険度の説明と災害弱者の避難誘導


大上 そういった観点で、日本の風水害対策はどのように考えられていますか。

沖 人命は守られるようになってきましたが、それでも亡くなる方はいらっしゃいます。だいたいが事故によるものですが、土砂災害によるものもあります。土砂災害に関してですが、今後日本は人口が減るわけですから、より人命を守る意味でも危ない所にできるだけ住まないよう、人々を誘導しなくてはなりません。これは、土地取引や不動産取引の際に、ここは風水害に対してどれくらいの危険があるか、説明する義務を設けるなど制度化していかなくてはいけないと思います。先進的な例に滋賀県の流域治水条例があり、不動産取引の際、水害に対する危険度を説明する努力義務を定めています。そのような取り組みを広めていけば、危ない所には次第と住まなくなってくるのではないかと思います。

 もう一つ問題なのは、洪水になると普段よりも流れが急になるため、面白がって見に行ってしまう人がいることです。津波も同様で、津波警報が出ると海岸に見に行く人がいます。やはり危険には近寄らないことが大事です。また、同程度の経済被害の災害でも、昼と夜で比較すると、夜の災害の方が人的損失は大きくなります。なぜかといえば、面倒だと感じたりして逃げる人が少ないからです。

大上 夜だから、ですね。

沖 しかし、その中には、災害弱者といわれる、逃げたくても逃げられない状況の方がたくさんいます。その方々をどうやって安全に避難させるかも課題となっています。ただし、避難する方が危ない場合もあり、どちらが安全かを判断するのは大変難しく、それが死者がゼロにならない理由の一つでもあるわけです。


●適切な情報提供をより組織的に行うべき


大上 政府や自治体の総合的な防災対策について考えるとき、アメリカ...
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