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世界四大文明が起こった所は…半乾燥地帯・河口・灌漑

水と地球と人間と~日本と世界の水問題(1)水と文明

沖大幹
東京大学大学院工学系研究科 教授
情報・テキスト
世界の四大文明は、なぜ大河の河口付近、比較的乾燥した地域に生まれたのか。そこには水が大きく関係している。地球規模の水循環と世界の水資源に関する研究の第一人者である東京大学生産技術研究所教授・沖大幹氏が語る「シリーズ・水と地球と人間と」第1回。(インタビュアー:大上二三雄氏/エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社代表取締役)
時間:07:10
収録日:2015/03/19
追加日:2015/08/06
≪全文≫

●大河を利用する灌漑技術が文明を生んだ


大上 今日は、東京大学生産技術研究所の沖大幹さんという非常に立派なお名前の先生にいらしていただきました。これから「水の話」をしていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

沖 よろしくお願いします。

大上 それではまず、世界地図を見ながら「水と文明」について語っていただけますか。

沖 世界の四大文明は、大河のほとりに生まれたといわれています。ナイル川のエジプト文明、インダス文明、チグリス・ユーフラテス川のメソポタミア文明、そして黄河文明。どれも確かに大河のほとりですが、大きければよいわけではありません。世界の大河には、南アメリカのアマゾン川、北アメリカのミシシッピ川、次にロシアのオビ、エニセイ、レナという北極海にそそぐ三つの大河川があり、そのあとにはラプラタ川などがあって、ようやくナイル川が来ます。四大文明河川は、世界の大河川の中では、必ずしも大きな川ではないのです。

 また、雨量でみると、文明の起こった所はいずれもあまり多くありません。エジプトは今や乾燥地域で、雨は年間数10ミリしか降りません。チグリス・ユーフラテス川は割と湿地帯で降る方ですが、インダス川も下流は雨が降りませんし、黄河は乾燥した黄土高原を流れてくる川で、黄河文明の周辺も雨は多くありませんでした。以前、ちょっとおかしいと思って調べたことがあります。よく見ると、いずれの文明も河口付近で起きているのです。文明ができた所では雨が少ないけれど、上流ではよく雨が降る。上流から流れてきた川の水を使うことができれば、灌漑農業が盛んになるのです。今われわれが、「四大文明」と呼んでいる所に共通する特徴です。

 雨が多いのは、昔も今も農業にはあまり良くありません。小学校で習う通り、光合成には二酸化炭素と水と太陽の光が必要です。太陽の光は、雨が多いと少なくなりますから、年中晴れている半乾燥地帯や砂漠地方の方が、水さえあればむしろ農業に向いているのです。日本でも「日照りに不作なし」といいます。東北地方で不作になるのは、「やませ」という風が吹き、雨が多くじめじめした日が続く夏です。

 つまり、乾燥しているところに大河があり、その水をうまく引き回す灌漑設備をつくり、その設備が残っている所をわれわれは文明と呼んでいるだけなのです。

 日本や、もう少し湿潤なモンスーン地域にも、昔から人は住んでいたと思うのですが、一つには大規模な工作物をつくらなくても多分水が得られたのです。石造りでなければ、数千年後までものがなかなか残りません。痕跡が残っていなかったので、以前は古代文明がなかったと思ってしまったのでしょう。

 ただ、文明の数を四つにしたのは、どうもある時以来の日本独自の伝統らしく、国際的には、インカ文明など割と最近のものも含めて文明と呼ぶ地域もたくさんあるようです。その意味では、あまり四大文明にこだわる必要はありません。

 まとめると、必ずしも雨が豊富ではなく、大河の水を使い回す技術が生まれた所を古代文明と呼んでいると思ったらよいのではないでしょうか。


●水路の近くにしか人口密集地はなかった


大上 この地図を見ると、水がたくさんあるところと人口密集地域は、必ずしも重なるわけではないようです。

沖 アフリカの中央部や南インドは、雨季は水が多いのですが、それ以外の時期はとても乾燥しています。雨季のある地域には病害虫の問題がありますし、道路が舗装できなかった時代は、雨が多いことは交通経路として有利ではなかったでしょう。

 さらにいえば、昔は水路こそが道路でした。大量の荷物は船で運ぶ他はなかったので、水路が維持できるところにしか人口密集地はありませんでした。大河は必ず海に通じています。文明は河口から世界と交易していたのです。昔は水路で輸送していたことを地政学的に意識する必要があると思います。

大上 もう一点、降水量は、地球温暖化が進んでくるとどのように変化していくのでしょうか。

沖 雨が多いのは基本的に熱帯地域で、そこに熱帯収束帯があるのですが、温暖化が進むと、その幅が若干大きくなり、雨の多い地域が南北に広がります。その高緯度側には、雨の降らない乾燥地域がありますが、それも少し北に広がります。ですから、スペインなどの半乾燥地域がさらに乾燥するのではないかと思います。その地域の水資源の減少が最も懸念される事態です。

大上 地球温暖化が進むと、アラスカやシベリアや満州あたりは良い農地になるから、実はそこに住む人たちにとっては、温暖化は良い現象ではないかという話をよく聞きますが。

沖 それはその通りだと思います。ただ、気温が上がればすぐに農地ができるわけではありません。開墾して、土壌を豊かにする手間ひまが...
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