●科学や数学で解けていない問題は多い
── 先生は『東大教授』という本も書かれましたが、この中に出てくる「勉強と研究の違い」のくだりが本当に面白かったので、少し伺ってもいいですか。
沖 高校生の時、受験勉強がだんだん嫌になっていきました。勉強しなくてはならないからではなく、一番顕著なのは物理ですが、問題がいつも同じで飽きてくるからです。20世紀の初めに生まれていれば発見のチャンスはあったのに、世の中は分かったことだらけだ、などと思っていました。
ところが、大学に入ると、その認識が間違っていたことがしみじみと分かってきました。高校までの教育では、分かっていることを分かるように教えることが先生の仕事ですから、私はすでに分かっている世界しか知らなかったわけです。
── 解答のある世界ですね。
沖 しかし、科学で解けていない問題はたくさんあるのです。むしろ解けている問題こそ、ほんのわずかにすぎません。数学も同様だと言います。一番簡単な例で言うと、私たちは、数学は数式で何でも解けると思っていますが、高校では解ける数式を習うのです。解けない問題は教えても解けないわけですから、解かないのです。このことを高校の時には分かっていませんでした。
●新しい課題の発見と挑戦自体に価値がある
沖 大学に入ると、答えがないかもしれない問題に挑戦していくことになります。研究とはそういうものです。考えてみると、実は社会に出てビジネスを行うときも同じで、成功するかどうかは分かりませんが、挑戦しなくてはなりません。
大学でやる勉強の価値とは、答えがあるかどうか分からないけれど、新しい課題を見つけて必要な資料を集め、あるいは誰に話を聞けばいいかを考えて、決められた締め切りまでに、100点は無理としても、80点、90点の答えを出すことです。そのために、一番効率の良いやり方を追求することです。そういった経験を、一度大学でできるといいと思います。幸いなことに、理系、特に工学系は、卒業論文を書くときに一度できるのです。
東大の工学系は、1学年に900~1000人の学生がいます。皆オリジナリティーのある研究ができるとは限りませんが、それに挑戦すること自体が、社会に出てから、新しい課題に挑戦するための良い練習になっているのではないかと思います。
大上 課題設定能力を学習する機会にな...