●なぜトランプ政権誕生を予測できなかったのか
テンミニッツTVをご覧の皆さま、お久しぶりです。元海上自衛隊佐世保地方総監の吉田正紀です。自衛隊退官後、ワシントンD.C.で仕事を始めてから、早いもので約2年がたちました。現在の仕事は自分の経歴や経験を生かして、アメリカの安全保障政策や戦略、軍事戦略の動きを調査・分析し、将来どうなるかを予測することです。私の仕事としては、「予想外」という言葉はあまりありがたくない言葉ですが、実際には、この2年間でさまざまな予想外の出来事を経験しました。
とりわけ最も予想外だったのは、ドナルド・トランプ政権の誕生でした。これは私のような専門外の人間だけではなく、アメリカ政治の専門家、メディア関係者、政府関係者も含めて、世界中の多くの人々にとって、予想外の出来事でした。大統領選挙からすでに半年が過ぎ、この間、多くの専門家やメディアが大統領選挙結果の分析をしてきました。私も大統領選挙後、D.C.で仕事をしている日本の研究者やメディアの友人たちとともに勉強会を重ね、なぜ私たちはトランプ政権誕生を予測できなかったのか、真剣に分析してきました。
分析の結果、トランプ陣営がキャンペーン戦略の中核として仕掛けたソーシャルメディア戦、そしてロシアがヒラリー・クリントン政権誕生を阻止するために仕掛けた情報戦、こうした2つのサイバー空間で繰り広げられた戦いの影響を、われわれが過小評価していたという結論に達しました。
本日は、そうした分析結果の一端を、私のワシントンにおける同志である、若手ロシア研究家の東秀敏氏(American Security Project エネルギー安全保障プログラム ジュニアフェロー)とともにお話しします。
●アメリカの選挙ではソーシャルメディアが欠かせなくなっている
まず私から、トランプ陣営のソーシャルメディア戦について、ジョージ・ワシントン大学修士課程で大統領選挙における両陣営のキャンペーン戦略を研究した岡田弾次郎氏の研究成果をもとに、お話しします。
キャンペーン戦略の善しあしは、選挙の勝敗に直結します。アメリカ政治の歴史を振り返れば、新しいメディアの環境をいち早く理解し、それを効果的に使った者が、国民の支持をつかんできました。フランクリン・ルーズベルトのラジオ演説に始まり、ジョン・F・ケネディのテレビ討論と広告、バラク・オバマ氏の...