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マイクロターゲティングがトランプを勝利に導いた

トランプ政権とソーシャルメディア(1)選挙キャンペーン

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監
情報・テキスト
アメリカの選挙では近年、ソーシャルメディア上で、マイクロターゲティングの手法を用いて、積極的に有権者に働きかける試みがなされている。元海上自衛隊佐世保地方総監で、一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員を務める吉田正紀氏が、トランプ政権の誕生を生んだ、ソーシャルメディア戦略について解説する。(全3話中第1話)
時間:09:30
収録日:2017/02/24
追加日:2017/08/11
≪全文≫

●なぜトランプ政権誕生を予測できなかったのか


 テンミニッツTVをご覧の皆さま、お久しぶりです。元海上自衛隊佐世保地方総監の吉田正紀です。自衛隊退官後、ワシントンD.C.で仕事を始めてから、早いもので約2年がたちました。現在の仕事は自分の経歴や経験を生かして、アメリカの安全保障政策や戦略、軍事戦略の動きを調査・分析し、将来どうなるかを予測することです。私の仕事としては、「予想外」という言葉はあまりありがたくない言葉ですが、実際には、この2年間でさまざまな予想外の出来事を経験しました。

 とりわけ最も予想外だったのは、ドナルド・トランプ政権の誕生でした。これは私のような専門外の人間だけではなく、アメリカ政治の専門家、メディア関係者、政府関係者も含めて、世界中の多くの人々にとって、予想外の出来事でした。大統領選挙からすでに半年が過ぎ、この間、多くの専門家やメディアが大統領選挙結果の分析をしてきました。私も大統領選挙後、D.C.で仕事をしている日本の研究者やメディアの友人たちとともに勉強会を重ね、なぜ私たちはトランプ政権誕生を予測できなかったのか、真剣に分析してきました。

 分析の結果、トランプ陣営がキャンペーン戦略の中核として仕掛けたソーシャルメディア戦、そしてロシアがヒラリー・クリントン政権誕生を阻止するために仕掛けた情報戦、こうした2つのサイバー空間で繰り広げられた戦いの影響を、われわれが過小評価していたという結論に達しました。

 本日は、そうした分析結果の一端を、私のワシントンにおける同志である、若手ロシア研究家の東秀敏氏(American Security Project エネルギー安全保障プログラム ジュニアフェロー)とともにお話しします。


●アメリカの選挙ではソーシャルメディアが欠かせなくなっている


 まず私から、トランプ陣営のソーシャルメディア戦について、ジョージ・ワシントン大学修士課程で大統領選挙における両陣営のキャンペーン戦略を研究した岡田弾次郎氏の研究成果をもとに、お話しします。

 キャンペーン戦略の善しあしは、選挙の勝敗に直結します。アメリカ政治の歴史を振り返れば、新しいメディアの環境をいち早く理解し、それを効果的に使った者が、国民の支持をつかんできました。フランクリン・ルーズベルトのラジオ演説に始まり、ジョン・F・ケネディのテレビ討論と広告、バラク・オバマ氏のインターネット選挙が良い例です。そして2008年に、オバマ氏が大統領選挙に勝利して以降は、ソーシャルメディアを使った選挙キャンペーンが加速しています。

 ソーシャルメディアには、誰でも手軽に情報を発信できるという、双方向性の特徴があります。オバマ氏がそれをうまく取り入れて以来、アメリカの選挙キャンペーンには欠かせないツールとなっているのです。今回の2016年の大統領選挙が、2008年、2012年のときと違う点は、今やソーシャルメディアは巨大なユーザー数を抱え、デジタルプラットフォームとして重要な社会インフラの一つとなっている、ということです。


●世界の人口の3割がソーシャルメディアを使用している


 現在、世界の人口の3割に当たる22億人が、ソーシャルメディアを使用しています。オバマ氏が2007年2月に大統領選挙に立候補を表明した時、Facebookのユーザー数はわずか3,000万人でした。しかし現在、アメリカだけで1.6億人、成人の7割が使用しています。

 また、昨年(2016年)5月のPew Research Centerの調査によれば、アメリカにおいてソーシャルメディアを通じて、ニュースを取得する人の割合は62パーセントに達しています。特に「ミレニアルズ」と呼ばれる1980年代前半から2000年代前半に生まれた、インターネットに慣れ親しむ世代にとって、ソーシャルメディアは主要なニュースソースとなっています。

 同じくPew Research Centerの別の調査では、「先週、どのニュースソースから政治関連のニュースを取得したか」という問いに、ミレニアルズの61パーセントがFacebookと答え、2位のCNNの44パーセントを大きく上回りました。

 モバイル、すなわち携帯やスマートフォン、タブレットの急速な普及も、この流れを加速させているでしょう。現在、アメリカ成人の92パーセントが携帯電話を持ち、そのうち18~29歳の86パーセント、30~49歳の83パーセントが、スマートフォンを所有しています。18~29歳のスマートフォン所有者の9割が、モバイルからソーシャルメディアにアクセスすることが分かっています。これがアメリカにおけるソーシャルメディアの現状です。


●ソーシャルメディアを通じて積極的に有権者に働きかける


 メディア戦略と並んで、近年のアメリカ選挙で最も重視されてきた戦略は、「マイクロターゲティング」です。有権者データを幅広く収集し、それを詳細に分析することで、有...
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