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いまだ政変が起きず衝突が長期化する国を米国は最も懸念

ワシントン発、安全保障の未来像(2)中東政変を分析

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監
情報・テキスト
ロシアと並んでアメリカにとっての大きな脅威は、中東情勢だ。元海上自衛隊佐世保地方総監・吉田正紀氏は、2011年に起こった中東政変の展開では、当該国指導者の在位年数がカギを握ったと述べる。そして政変が長期化した地域に、ロシアの思惑やイスラム国が加わったことで、事態はさらに悪化している。(全5話中2話目)
時間:08:14
収録日:2015/11/11
追加日:2015/12/21
≪全文≫

●アメリカの安全保障にとって、もう一つの脅威は中東だ


 次に、アメリカにとってもう一つの脅威の認識である中東について述べます。中東も、昔から紛争が絶えないところです。ここも、バラク・オバマ大統領が政権を取った後というところから見ると、2011年1月のチュニジアでの政変に端を発した、中東における一連の革命・改革の流れ、いわゆる「ジャスミン革命」とも呼ばれる革命が(変化の)一つの契機になっています。

 これは細かく述べますときりがないので簡単に言いますと、チュニジアの政変を受けてデモが拡大した国と、それからデモがいったん広がった後に収束した国、情勢が悪化した国、まだ続いている国といった分類ができるかと思います。


●中東政変の分析1:デモが早期に収束した国/しなかった国


 まず大きくは、結果的にこの時のデモが収束していない国と、デモが早期に収束した国に分類することができます。収束した国と収束しなかった国の違いの一つに、その国の指導者の在位年数が挙げられます。収束しなかった国の指導者は、在位30年以上という長期にわたって統治をしており、いずれの国も原則として政治的自由の希求が認められていたにもかかわらず、実際には独裁政権が続いていた。このような、建前と現状の乖離に対する国民の不満が爆発したものとして分析が可能です。

 余談になりますが、この時に中国やロシアがこの「ジャスミン革命」に着目したのは、まさにこの部分です。特に中国は、長い間こういった(独裁の)状態が続いている。革命が我わが国に波及するのではないかということで、ここに注目したわけです。話を本筋に戻します。

 では、収束した国の場合はどうかといいますと、これは王制や首長制などにより、誰もが国の最高指導者になれるわけではない、というそもそもの前提があった国が多数でした。そのためデモ隊は、国家体制の根幹を覆すほどの変化を要求することなく、デモは収束したわけです。一方、政治的自由が認められているアルジェリアやジブチでは、在位年数が比較的許容範囲であったと見られ、国のトップの辞任を求める前にデモは収束しています。


●中東政変の分析2:デモが政変に変化した国


 次に、デモが収束しなかった国を、さらにデモが政変に変化した国とデモ・衝突が長期化している国に分類して考察します。デモが政変に変化した国が、エジプトおよびリビアです。これは、早い段階でデモをまとめあげる勢力が存在したことが大きな特徴です。この勢力により、対内的には反体制運動が統一され、効果的に活動を展開できました。対外的には、体制崩壊後には誰を支持すればいいのかを明確にしたことで、国際社会が支援しやすい環境が醸成されたということです。

 もちろんエジプトでは、皆さんご承知の通り、政変という目標を達成した後に、今度は各勢力の意見が衝突し、新しい政権の樹立が難航します。2011年に樹立されたムルシー政権が、2013年に再び軍部によって覆されるという混乱が、現在もまだ続いています。しかしいずれにしても、いったんはこのような状況になったわけです。


●中東政変の分析3:デモからいまだ政変に至っていない国


 ここからが本題です。他方、まだ政変が起きていないイエメンやシリア、まさにここがいま、アメリカが中東において非常に懸念を持っている国ないし部分です。この国では旗を振ってデモ隊をまとめあげる者がなく、各勢力が個別に活動していたために混乱が継続している状況です。また、どの勢力を支持するべきかが不明瞭であるため、国際社会としても積極的に支援することができず、実効的な手段を講じることができない状態が続いています。

 そして現在、中東において最も懸念されているのが、シリアをめぐる情勢です。アラブ連盟や国連の調停がシリアで功を奏しない理由の一つに、シリア国内における対立構造が複雑であることが挙げられています。政権側と反体制派側による衝突に加えて、政権側と反対派側それぞれがさらに内部で対立しています。そのため停戦などを合意しても、それに反する分子がこれを順守しないという構造があり、停戦が実現しない状況が続いています。

 さらに国際社会の対応も一枚岩となっていません。そのため、アサド政権による現体制を強く非難するアラブ連合や欧米諸国に対し、中国やロシアはそれぞれの思惑から、アサド政権を擁護する立場を取っています。特に、このような中国とロシアのスタンスにより、国連安全保障理事会も強い立場を取ることができない構造があります。

 さらに現在最も憂慮すべき要素は、この情勢にISIL(IS、イスラム国)が加わったことです。これによってさらに事態は悪化します。先ほど述べた、米ロ関係の悪化を受けたロシアの軍事介入より、さらに複雑化・...
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