●トランプ新政権で変わるもの、変わらないもの、変えるべきもの
アメリカ大統領選挙後まもなく、11月終わりから12月にかけて、私が所属する日本戦略研究フォーラムの機関誌に、「トランプ新政権で「変わるもの」、「変わらないもの」、「変えるもの」」という題名の論文を寄稿しました。
「変わるもの」とは、4,000人にも及ぶ大統領任命の人事、いわゆるポリティカルアポインティーズです。これは、民主党から共和党へ、政権が8年ぶりに移行する際に生じる、アメリカの典型的な国内政治構造上の変化です。
次に、「変わらないもの」とは、わが国の官僚に該当する、政権を支える専門家集団です。その文民職員の数は約300万人で、軍人の数は約150万人です。国防省にはこうした専門的な職員が200万人います。したがって、特に国防省を中心とした、アメリカの安全保障上の課題認識は、変化しないものと考えていました。
最後に、「変えるもの」とは、正確には「変わるべきもの」と表現すべきでしょう。すなわち、ドナルド・トランプ大統領に対する、周囲の人々の態度の変化です。選挙中、共和党議員や在野の共和党系の安全保障専門家は、トランプ氏を批判してきました。トランプ氏の大統領就任後、彼らの態度は変化すべきものでした。
こうしたことから、論文の最後には、第15代統合参謀本部議長リチャード・マイヤーズ元空軍大将の、次の発言を引用しました。「大統領選挙中のトランプ氏のレトリックは、割り引く必要がある。誰が大統領になろうとも、1月20日のパレードが終わり、オーバルオフィス(大統領執務室)に座った瞬間から、現実に直面し、大統領の責任の重さによって、レトリックは変更されるだろう」。そして、私はマイヤーズ大将の言葉を信じたいと思うし、共和党や安全保障専門家の国益に沿った良識にも期待したい、と論文を結んだのです。
●日本におけるトランプ政権のイメージは必ずしも正確ではない
4月末には政権誕生から100日を過ぎ、まもなく政権誕生から、半年が過ぎようとしています。元来この期間は、メディアと新政権のハネムーンでした。新政権への期待を込めて、政権が落ち着くまでは、メディアは批判を控えるはずでした。しかし、さまざまな要因によって、政権発足当初から、もっと言えば、政権発足前から、アメリカの主要メディアは一貫して新政権に対して批判的です。連日連夜、トランプ批判を繰り返しています。
また、政権交代時に、政治任用ポストに関して生じる現象も、通常通りではありませんでした。今回の場合、通常通りであれば、政権にいた民主党系の政治任用者が、大学やシンクタンクなどにポストを得、他方、在野にいた共和党系の専門家は、政権入りします。これは「回転ドア」と呼ばれています。
しかしトランプ氏は、選挙中から、こうしたワシントンエスタブリッシュメントと言われる人々を、激しく非難してきました。就任後も、その姿勢を崩していません。すなわち、回転ドアは止まった状態になっているのです。その結果、安全保障や経済、金融、外交といった、さまざまな在野の専門家は、民主党系はもちろんのこと、共和党系の人でさえ、政権に入れなくなっています。このため、彼らの批判の矛先は、新政権の行動や政策に向かう傾向にあります。
こうしたアメリカのマスメディアの報道や専門家の発言によって、日本におけるトランプ政権のイメージが形成されているため、それは必ずしも正確ではありません。そこで今回は、政権発足後に実際に起きたことを中心に、ワシントンD.C.で私が実際に見聞きしたこと、また、私の同志から得た情報をもとにして、アメリカの政治の現状についてお話しします。
●トランプ政権下の政治は3党構造である
まず、トランプ政権下の政治の基本構図を見てみましょう。現状では、共和党とトランプ政権が融和したとは、とても言えません。トランプ氏の支持基盤は、従来、民主党の支持基盤であった白人ブルーカラーを中心とする人々です。こうした人々に支持を受け、既成政党への批判勢力として、新たにトランプ氏の党が存在しています。したがって、民主党対共和党という従来からの構造に、トランプ党を加えた、3党構造として現状を理解した方が分かりやすいかもしれません。
こうした、若干大胆な仮説に基づいて、トランプ党と民主党の基本的な関係を考えましょう。トランプ党は民主党にとって、自らの支持基盤の切り崩しであり、マイナスの効果をもたらします。一方、トランプ政権にとっては、自らの力の源泉である支持層への公約を果たすことが、最優先事項です。これが政権の安定、そしてトランプ党長期政権の足掛かりとなるでしょう。
議会で数的劣勢にある民主党にとって、トランプ政権の公約に沿って出される法案は、政策等の党内の意見の...