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刀の本来の目的は「守り刀」として家や個人を守ること

刀匠・松田次泰に聞く―日本文化と日本刀(3)守り刀

松田次泰
刀匠
情報・テキスト
今や、日常的に日本刀を見る機会は少ないが、「日本刀を持つには、免許や講習が必要なのでは?」と思っている人も多いのではないだろうか。実際には、日本刀は誰でも保有できるし、購入できる。そのあたりの事情を刀匠・松田次泰氏にうかがってみた。(全3話中第3話)
時間:06:59
収録日:2017/03/22
追加日:2017/12/08
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≪全文≫

●刀の本来の目的は、「守り刀」として家や個人を守ること


質問 現代の日本社会では、日本刀は危険であるとか、普通の人間は持てないという認識が一般的だと思います。その点について教えてください。

松田 刀には、必ず『銃砲刀剣類登録証』が付いています。銃刀法で許される銃器というと、皆さんはほとんど散弾銃やライフルを連想されますが、実は「銃刀法」でいう「銃」は古式銃のことです。慶応3(1867)年までに日本にあった銃のことで、それは登録制であり、それ以後は銃を持つ「人」に許可を与えます。そのため、精神鑑定も必要になってきます。

 一方、刀の登録は「物」に対して行われるので、誰が持ってもいいのです。登録証の付いていない刀など、現在の日本では考えられません。

 ただ、私は千葉県の登録審査委員ですので、いまだに「倉庫や物置を探していたら刀が出てきた。どうしたらいいですか?」と質問されることがあります。こういう場合は、まず近くの警察署へ持っていって「発見届」という書類を交付してもらいます。警察で「没収」などと言われることは絶対にありません。「どこから出てきたのか?」「今頃どうして刀が出てきたのか?」と聞かれる場合もありますが、最近の警察官は親切ですから、「まずは教育委員会に持っていってください」と教えてくれるでしょう。

 その後、県の場合は県庁から通知が来ます。指定された日時に指定の場所へ発見した刀を持っていくと、私たちのような登録審査委員が「この刀は日本刀である」という証明をします。

 どこを見て証明するのかというと、日本刀の場合は材料です。洋鉄でつくられた刀は日本刀とは認められていないので、却下になります。軍刀には一部、量産するため、洋鉄でつくられた時期があります。そのときにそれらをはじくことになるのですが、昔の刀なら、どんなに錆身であろうと何だろうと、「日本刀である」と分かれば、それに対して許可証を発行します。

 そういうことですから、まず、日本刀は誰が持っていてもいいことを認識してください。また、家にある場合、「刃物だから危ない」という扱いではなく、そこにあるということは代々受け継がれているものだということなので、ぜひ大事にしていただきたい。これは、その刀がいいものだとか、美術的価値があるとかないとかは関係ありません。本来の刀の目的は、「守り刀」として、家や個人を守ることです。ぜひそのまま持ち続けていただきたいと思います。


●日本刀がなくなると、一番困るのは?


松田 もう一つ付け加えますと、日本刀がないと困る場所が日本にはあります。例えば宮内庁がそうです。

 伊勢神宮は20年ごとに式年遷宮をします。その時に神宝として、直刀50本、矛55本、合計105本をお納めします。伊勢神宮は、ご存じのように天皇家と直接関わる神社ですので、この行事は皇室行事になります。天皇家は神道に則って行事を行います。神道では全てが新しくないといけませんから、20年ごとの遷宮で、全てを新しく造り替えています。そういう中で、もしも刀鍛冶がいなくなったら、伊勢神宮が一番困るのではないかと思います。

 また皇室では、天皇陛下のお子様やお孫様が生まれると、その日のうちに「守り刀」を授けるというしきたり(賜剣の儀)が、いまだに残っています。最近ではNHKでも報道されます。平成13年に愛子さま(愛子内親王)が誕生された時、初めてNHKの7時のニュースで、守り刀を人間国宝の先生(大隈俊平氏)がつくっていることが伝えられたのを見ました。このような伝統に連なることは、刀鍛冶にとって大変名誉なことです。

 このような次第ですから、刀がなくなってしまうと、日本の文化の奥にある皇室行事が行えなくなってきます。それほど刀は日本の文化に深く関わっているのです。

 ですから、もし自分の家にあるとか、機会があって手に入るのなら、「刃物として危ない」という感覚ではなく、伝統的な文化として、ぜひ手元に持っておいていただきたいと思います。

<参考文献>
『名刀に挑む 日本刀を知れば日本の美がわかる』(松田次泰著、PHP新書)
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