●本物を見ながら物づくりがしたくて刀鍛冶の道へ
質問 刀鍛冶を志すようになったきっかけについてお聞きしたいのですが。
松田 私は北海道の出身で、刀というものは、ほとんど見たことがありませんでした。でも、小さい頃から時代劇などで刀は何となく知ってはいました。その後、絵をやるために東京へ出てきて、絵を一生懸命見たのですが、刀も国立博物館などで見て、「刀っていいな」と思ったのです。
しかし、絵はやめました。なぜ絵をやめたのかというと、私は地方で生活していた人間ですから、例えばゴッホとかセザンヌの本物を東京で初めて見たのですが、その時、絵をやるのは難しいと思ったのがその理由です。でも、日本の美術品の中で何か本物を見ながら物をつくることができないかと思っていました。そんな時、東京で刀を見ていて、ぜひ自分でもつくってみたいということになり、刀鍛冶を始めたのです。やはり日本刀は日本にしかないですし、いい刀も日本にしかないですから。
少し戻りますが、なぜ芸大に入り直そうとしてまで絵をやりたかったのかというと、やはりフランスでもドイツでもイタリアでも、そういうところで絵の勉強をしたかったからです。本物を見ながら勉強したかったのです。でも、それが無理だということで、絵はすっぱりやめました。そこは日本画でも良かったのでしょうが、私は日本画というものにはどうもそれほど興味がわきませんでした。それで、刀の方へ入っていったのです。
●目標も苦労もその時々で変化してきた
質問 実際に刀をつくっていく中で、特に苦労している点、また、志していることはどんなことですか?
松田 もう40年ほど刀鍛冶をやっていますから、その時々で思いは変わりますが、初めの頃は、ただ「刀をつくりたいな」ということで始めました。ある時期になると、日本刀は、800年ほど前の鎌倉時代のものを基準にしているということが分かって、何とかその技術を知りたいというのが、目標になったのです。
そして、ある程度それが分かってくると、いいもの、いわゆる国宝や重要文化財に指定を受けているものに、どうすれば近づくことができるかを考えるようになりました。それはただ単に鎌倉時代のものを再現したからいいということではなく、質の問題になってくるわけです。いい材料をどうやって手に入れたらいいだろうか、ということです。
刀は和鉄というものでできていて、それは売っているわけではありません。自分でつくることもあるのですが、唯一島根で刀鍛冶用にたたらをやっているところがあり、私たちはそこから買って刀をつくっています。ですから、今はどのようにいい和鉄をつくってもらうかという、そちらの苦労の方が今は大変です。なので、必要に応じて目標が変わってきました。
●今から刀匠になるには5年間の修行が必要
質問 刀鍛冶に限らず、これから日本の伝統工芸を伝承していく若者たちに伝えたいことは?
松田 私は刀が好きで、この道に入りました。ほとんどみんなそうです。「好きだからやりたい、つくってみたい」と訪れるのです。ところが、今のシステムで刀鍛冶になるためには、刀鍛冶の弟子として5年以上修行しないと、文化庁が許可をくれません。
おそらく私たちの時代が最後の「三食親方持ち」の内弟子だったと思います。弟子部屋という部屋もあり、そこで私は7年でしたが、通常は10年間、小遣いもなしでやらないといけません。そんなことは今ではできないので、大工さんなどと同じように刀鍛冶も「通い」の修行になっています。
通いではあっても、教える側も金がありません。それで、私などもそうですが、弟子入り志望の若者がいると、親御さんに来てもらい、「大学へ行かせたつもりで仕送りをしてください。大学は4年で済みますが、こちらは5年です」と金銭面の補助をお願いします。とても私たちでは負担できないからです。今考えると、よく自分の親方は養ってくれたものだと思います。「文句も出て当然だった」と思います。当時の自分はろくに言われたことも素直に聞かない若者でしたから。
ともかく、今は非常に厳しい状況です。その上、苦労して刀鍛冶の免許を取れば、明日から刀で飯が食えるかというと、ほとんど食えません。今は現代刀を買ってくれる人がほとんどいないからです。そういう中、今の若者はアルバイトしながらでもやっていますが、少しもったいないことだと思っています。
●0. 1%に残る方法を考え抜けば「イケる」伝統工芸
松田 実は、伝統工芸で生活する方法は、ちゃんとあります。それには、変に時代のニーズに合わせないことです。日本刀を、今の時代に必要としている人たちに合わせるという考え方ではなく、本来の日本刀の良さはどうあるべきかを考えること。そのための技術を分かった上で、つくる人の...