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日本刀の持つ「至高の美」と「強さ」をいかに両立するか

刀匠・松田次泰に聞く―至高の美と強さ(2)その両立へ

松田次泰
刀匠
情報・テキスト
 刀匠・松田次泰氏は著書『名刀に挑む』の中で、日本刀の持つ「至高の美」と「強さ」をいかに両立するかをテーマとして取り上げている。そこに苦心してきた松田氏がその意味と難しさについて語る。(全2話中第2話)
時間:04:09
収録日:2017/03/22
追加日:2017/12/12
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≪全文≫

●刀の持つ「至高の美」と「強さ」をいかに両立するか


質問 ご著書『名刀に挑む』では、刀の持つ「至高の美」と「強さ」をいかに両立するかが一つのテーマになっていました。詳しくお聞かせください。

松田 刀は切れるのがとにかく大前提で、どんな刀でも切れはします。また、使えば曲がるのはやむを得ませんが、問題は折れることです。それでも刃物ですから、折れない刀や切れる刀を機能的につくるのは、それほど難しくはありません。ただし、そこに「美しい」という要素が入ってくると、両立させるのが面倒なのです。でも、鎌倉時代のものはほとんどがそれらを兼ね備えています。

 私は40年間刀鍛冶をやってきた中で、20年ぐらいは仕事として「居合刀」をつくってきました。実際に竹や薪わらを切る刀です。注文を受けてそれらを手がけましたが、両立させるのはなかなか難しかった。武器としての機能性を追求すればするほど、美術性からはどんどん離れていく。逆に美しさを追求していくと、機能性からは離れます。そのぐらい和鉄というのは扱いにくいのです。

 明治になると、近代製鉄が入ってきて職人が和鉄から離れていきました。和鉄を使っていたのは刀鍛冶だけではなく、鑿や鉋、鋸などをつくる野鍛冶も同じです。それらの腕のいい職人も、明治期には和鉄から離れざるを得なくなりました。洋鉄という新しい技術を取り入れたところだけが残っていったのです。その時代に合わないものをつくろうとすると食えなくなってしまうのは、いつの時代も同じです。しかし、日本刀だけは、和鉄でないとできません。洋鉄の技術が入ってきたために苦労したのです。


●和鉄の技術を解明すれば、資源のない日本が救われる?


松田 明治以来、刀鍛冶には製鉄所や大学が研究対象として援助するケースが意外に多くあります。砂鉄から鉄をつくる技術を知りたいからです。日本には鉄鉱石がなく、砂鉄しかありません。なんとか砂鉄から鉄をつくりたいと研究を重ねていますが、製品化には失敗しています。

 砂鉄からつくった鉄製品の事例として最も有名なのが刀ですから、研究者が押し寄せます。東京大学、京都大学、東北大学、九州大学など皆、戦前は刀の研究を進めてきました。砂鉄から鉄をつくること自体はそれほど難しくないのですが、いいものをつくろうとすると、難度が上がります。出来上がった和鉄(玉鋼のこと)からどうやって刃物をつくるかという段階でつまずくのです。

 それは、大学や製鉄所が現在の冶金学の方法を用いようとするからです。和鉄という800年前の技術は、現在の理論とは合いません。どこがどう合わないのかが分かってくれば、道は開けると思います。

<参考文献>
『名刀に挑む 日本刀を知れば日本の美がわかる』(松田次泰著、PHP新書)
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