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東京藝術大学のAIを活用した「新しい伝統の創造」

「舞・飛天遊」―東京藝術大学COIのチャレンジ

松下功
元東京藝術大学副学長/元一般社団法人 日本作曲家協議会会長
情報・テキスト
東京藝術大学は、文部科学省と科学技術振興機構が開始した「革新的イノベーション創出プログラム(COI)」の拠点として、芸術と科学技術の異分野融合など、さまざまな試みに着手している。今回は、AIを活用して新たな「感動」を創造する試みについて、東京藝術大学副学長の松下功氏にお話を伺った。
時間:10:41
収録日:2017/11/16
追加日:2017/12/29
≪全文≫

●芸術は最先端科学と一緒に歩んできた


 こんにちは。東京藝術大学副学長の松下功です。私は大学も本業ですが、作曲家でもあります。

 作曲といってもいろいろなジャンルがあります。私は、一般的にいわれる現代音楽の作曲家として、どちらかというと新しい挑戦をしています。普段はオーケストラも書いたりしていますが、子どもの歌も書きます。これがヨーロッパの作曲家と日本の作曲家の違いです。ヨーロッパの作曲家は、現代音楽なら現代音楽、ポップスならポップス、子どもの歌を書く人はそちらだけですが、日本の作曲家はいろいろなものを書くのです。私は、藝大の教授であると同時に、一般社団法人・日本作曲家協議会の会長も務めています。そこにはいろいろな会員がいます。

 さて、今回の取り組みは、われわれ東京藝術大学のCOI(Center of Innovation:革新的イノベーション創出プログラム)拠点としての研究です。芸術と科学を一緒にして、どういった新しい感動を生み出せるかということにチャレンジしています。日本は、皆さんご存じの通り科学の進んだ国ですので、その科学に芸術がどう取り組んでいくか、ということで、科学に芸術はなんとなく離れているように思いますが、実は芸術というものは常に最先端の科学と一緒になっているのです。


●電気を使うと不自然? アートはそもそも人工?


 例えば、あそこにあるピアノが、あのような形になるまでには、人間の表現が変わっていくいろいろな経緯がありました。

 大勢で聞きたいということから大きな音が必要となり、そのための表現力という点でどんどん変わっていくということです。そうすると、技術の方も最先端の技術が使われていきます。高価なヴァイオリンを作るにも最先端の塗料や木を削る技術が入り、管楽器も技術が発達するにつれて変わっていきます。それらは割と自然に行われてきました。

 ところが、ある時から違う概念が出てきました。「電気」です。電気が入ってきたので、これに抵抗する人が出てきました。これは不思議なことだと思います。なぜなら、日常生活では普通に電気を使っているのに、それを人工的、要するに「自然ではない」と見る発想が出てきたからです。しかし、人間の生活は常に新しいものを作っていくものだと私は思っています。

 「アート」という言い方は、「人工的」という意味です。人間が創るから「アート」なのです。この辺りの概念が日本の人と海外の人では少し違い、日本の人はどちらかというと「自然」というものを芸術と見ます。海外の人は、「人工」(悪い言い方ではなく)、つまり人の手が入って、人と一緒にやっていくものが芸術であると思っているのです。


●新しい伝統の創造に挑む「舞・飛天遊」

 
 今回、われわれが新しく挑戦しようと思っているのは、演奏者から独立した自動ピアノを使います。ご覧の通り、誰も弾いていなくても音が鳴っています。これはセンサーを飛ばして、人間の動きをAIが捉えて、それをピアノに送って演奏する仕組みです。

 演奏するのは『舞・飛天遊』という作品で、これは実は私が作曲した「飛天遊」という和太鼓の協奏曲なのです。今までずっと和太鼓と一緒にやってきましたが、その和太鼓のソロ部分を森山開次氏に踊ってもらい、それをピアノに変換しようと思っています。果たしてどうなるか、これは大実験なのです。

 このチャレンジにおいて、私が一番大事にしているのは「新しい伝統の創造」です。これについては、うっかりすると伝統音楽をやっている人に誤解されてしまいますが、伝統音楽を新しくするということではありません。人間というものは、伝統に則った生き方をしながらも、常に新しい時代に沿って生きている。だから、例えば古典の演奏曲のように古いものをやっていても、やはり今の時代に合うようになっていく。それと同時に、新しい可能性を見いだしている気がするのです。

 私は、「伝統を守るためには新しい創造が必要なのではないか」という言い方をしています。これは議論の対象になることで、そうではないという人もたくさんいるかもしれません。私の見方は、「守るための世界はない。守るために新しいものをどんどん吸収し、新しいものを創りながら、伝統にしっかり則っていく」というものです。

 今回も、人間の生きる八重奏という合奏とピアノが一緒になりながら、表現形態は守りつつ、新しい感動性を見いだしていこうと思っています。


●ダンスと音楽と科学の「才能の共演」


 和太鼓の協奏曲である「飛天遊」をどう踊りとコラボできるかというところで、今回、もう一つ大事なことは「才能の共演」だと思っています。つまり、森山開次というダンサーの才能が、シャルーン・アンサンブルという音楽家の才能と一緒になる。それと同時に、人間の知恵で作ったピ...
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