●組織と人生を重ねることができた30年前の就職
大学で40年ほど教えていると、自分の教え子たちがどういう職業選択をするのか、あるいはどういう人生を歩むことになるのかを垣間見る機会が多くなります。中には、明らかに大きな変化を感じることもあります。例えば、今から30年以上前、私が指導するようになって比較的初期の頃の学生たちの就職活動では、どこに就職するかを自分の人生と重ねてみる人が多かったと思います。
当時、人気のあった企業といえば、例えば日本興業銀行(現みずほ銀行)が給与も高く、仕事にもやりがいがあると言われていました。公務員も給与は安いものの、大蔵省(現財務省)や通産省(現経済産業省)、日本銀行などに入れば、それなりに大きな仕事のベースを自分で築けるのではないかと思われていました。そのように、会社や組織と自分の人生を重ねて就職する人が大半で、その多くが一生その組織や関連会社の中でキャリアを全うするケースが多かったのです。
●スキルアップとキャリア形成を求め始めた学生
ある時期から学生の見方が非常に変わってきて、就職後10年以内に転職する可能性や、選んだ仕事に満足を得られなくなる可能性を考えるようになりました。「どういうところに就職したいの?」と聞くと、返ってくる答えは「自分を鍛えてくれるところ」だと言います。したがって、自分の能力をスキルアップしてくれそうな組織を選ぶケースが増えていきました。
今はそれほどでもありませんが、ある時期まで外資系の大手金融機関へ行く学生も増えました。彼らの志望動機として、よくある誤解は「給料が高いからいくのだろう」というものです。給与は高い方がいいに決まっていますが、別にそのために行くわけではありません。彼らが考えていたのは、「外資系の金融機関に数年勤めれば、その間に多少お金は貯められる。そこで次のチャレンジとして、アメリカのビジネススクールに行く」というビジョンです。外資系金融機関で働き、ビジネススクールで学ぶことで、ある種のキャリアができる。そうすると、その先に可能性が広がるだろう。つまり、キャリアを考えて外資系金融機関が選ばれたということです。
公務員志望の学生の場合も、その組織にずっと一生いられればハッピーだけれど、そうではない可能性があるかもしれないと考え始めているようでした。ただ、官公庁の場合は比較的早い時期から、自分の能力を高めてくれるような仕事ができるのではないだろうか。そのような思いから、自分を磨いてくれるところ、能力や経験をつけてくれるところに行く学生が増えたような気がしています。
それが最近は、また少し変わってきているのではないでしょうか。自分を鍛えてくれたり、磨いてくれる職種を選ぼうとする傾向は、もちろん残っています。しかし、今の若い人の場合、自分が将来こうなりたいというロールモデルが少しずつ変わってきていると思います。
●「ハッピーな人生」のロールモデルを模索する
では、どういうロールモデルが求められているのか。一つの企業の中で出世して役員や社長になったり、官公庁の中で出世して局長や事務次官になるような、典型的なキャリア以外のところに自分のロールモデルを求める人が増えているような気がします。
東大の理系の若い先生との話で、ややオーバーに表現したのかもしれませんが、「今の理系の学生で、日本を代表する大手メーカーに行くのは、あまり好まれない選択だ」ということです。それは、日本の大手企業にいる先輩方を見たときに、あまりハッピーな人生には思えないからでしょう。
「じゃあ、みんなグーグルやアマゾンやアップルに行くのですか?」と聞くと、それもあまり好ましい選択ではないというのです。日本の大メーカーよりはグーグルやアップルの方がいいように見えても、所詮は歯車だからです。
結局、何が一番人気があるのか。その先生の弁なので、実際にはどうかは分かりませんが、二つのことが頭に上っているようでした。一つは「優れた研究者になりたい」。大学の先生になりたいのではなく、ロボットでもAIでもバイオもいいのですが、その世界で尊敬されるようなリサーチをしたい。面白いことに、これにプラスして「それでベンチャーに関わりたい」というのです。有り体にいえば「金儲けしたい」ということかもしれませんが、そういう形で、先端の技術に足を置きながら、完全なアカデミアではなく、ビジネスにも関わる、そうしたことが人気のあるロールモデルだと言われていました。
理系の世界の特徴もあるのかもしれませんが、これは非常に面白い話だと思いました。若い人のロールモデルが何なのか、非常によく分かる話だと思います。
●経済学部出身者にも「ベンチャー」志向は増えている
文系の話に戻ると、私...