●日本からブラジルへ提供できる最たるものは、産業の生産性
最後に私の感想ですが、日本はいったいブラジルに何をできるのか、あるいは何がブラジルから学べるのか、逆に言うと、ブラジルは日本から何が学べるのか、日本に何を教えることができるのかということです。日本とブラジル、双方二つの観点から申し上げたいと思います。
日本がブラジルに提供できて、ブラジルが日本から学べるもの、これは植木茂彬さんも指摘していましたが(参照:「ブラジルと日本の問題点~ブラジル2世・植木茂彬氏からの進言~」)、産業の生産性だと思います。
日本の産業の生産性は大変特徴があります。日本という国は、世界の主要国の中でも珍しく、トヨタや日産のような巨大企業がありますが、トヨタ一つをとってみても、その下には協豊会、栄豊会という数百社の下請け構造があり、その他に2次、3次、4次、5次と下請けがあって、全部合わせると数千社、あるいは1万社、といった企業なのです。その中から自動車1台につき2万数千点の部品を組み合わせます。つまり、トヨタ自動車だけであの優秀な車はできていないのです。実は8割ぐらいは、それを支えている下請け構造が、本社と一緒に生産性向上、品質改善をする、人的資源の開発をするということを一緒になってやるから、国全体が豊かになるという構造を日本は持っているわけです。
こうした構造を構築したのは、実は戦後の高度成長です。実は中国もロシアもそういう構造を持っていません。アメリカもあまり持っていません。持っているのは台湾なのですが、台湾は中小企業が多く、その代わり主要企業があまりありません。
ということで、主要企業が最後にアセンブリーをして、国全体の下請け企業を支えるという構造を見事に持っているのは、日本だけです。ブラジルにはもちろん、支える企業はほとんどありません。
●ブラジルに学びたい、ブランド価値創造力
エンブラエルは、たちまちのうちに世界最大の中小型機メーカーにのし上がった会社です。工場に行ってみるときれいなのです。ただ組み立てをしているだけで、音も聞こえません。メーカーと言いながら、これはただ最終製品を組み立てているだけです。実を言うと、メーカーではないのです。
では、どこから部品を調達しているのかというと、これは全部、海外から部品は輸入しています。そこで、一番の部品は何かというと、エンジンです。エンジンはブラジルでは作れません。どこのエンジンなのかというと、ロールス・ロイスです。エンジンは今、世界で3社しか作れない。ロールス・ロイスとGEともう一社です。ということで、ロールス・ロイスのエンジンで作り、ロールス・ロイスの規定の部品を買い集め、しかしブラジルのデザインで、ブラジルの交渉力で、ブラジルのブランド価値で売りまくっているのです。
これはこれで、われわれは大いに学ぶところがあると思います。先ほどお話した建築家ニーマイヤーの曲線美もそうですが(参照:「ブラジルの繁栄と転落(1)ブラジリアと軍政時代」)、美しさとかプライドとかブランドというものは、自分が主体的に作れる価値ですから、これは、日本人は大いに学ぶ価値がありますが、これではいわゆる本当のメーカーではないわけです。
●構造ごと構築する日本式生産
そこで、日本は何ができるかということになるのですが、以前、私どもの夕食会にトヨタ自動車の社長以下、幹部の皆さまがお見えになりました。
トヨタ自動車はもう半世紀以上ブラジルで投資しているのですが、実は現在作っている車は7万台だというわけです。日本の国内でもアメリカでもどこでも、トヨタ自動車でなくてもほとんど全ての企業が、工場運営をする時の最低規模は約20万台です。20万台というと、平均価格が一番安いカーブの底にくるからです。
あまり巨大な工場ですと、多分工場内の運搬、あるいは労務管理に手間ひまがかかって、かえって高いものになると思います。20万台ぐらいで2千人ぐらいの従業員数という規模が、最適なのです。
それはどういうことかというと、そこで使う部品の8割は外部から取り入れます。そうすると、20万台規模の工場を持つということは、数百社の部品供給メーカーが、効率的に運搬ができる距離に存在していないといけない。その下請け会社と一緒に生産性、品質が向上しないと、20万台レベルの工場は成立しません。
したがって、その規模の工場が存在するということは、地域社会の生産性向上、人材養成そのものになっているということです。それが、日本でいうとトヨタを中心にした愛知中京経済圏であり、アメリカでいえばデトロイト中心の経済圏なのです。ブラジルにそういうものはありません。
しかし、こうした構造は作れるはずです。ホンダさん...