●VRという言葉が最近、注目を集めている
東京大学の廣瀬通孝と申します。「VR(バーチャル・リアリティ)」に関して、お話しさせていただきたいと思っています。
VRという言葉が最近、注目を集めています。一部のマスコミによれば、2016年が「VR元年」と表して喧伝している人たちもいるようです。
バーチャル(V)という言葉は、「実際には存在しないけれども、機能や効果として存在するも同等」というような意味です。リアリティ(R)という言葉は、実は「現実」や「現実感」というような意味です。全て合わさった「VR(バーチャル・リアリティ)」という言葉は、コンピュータによってつくり上げられた映像世界の中に、われわれが入り込んでいって、そこでさまざまな擬似的な体験をすることができる、そのような技術のことを称して使われています。
ちなみに、VRのことをよく「仮想現実」というのですが、仮想という言葉は少し微妙で、厳しく言葉を使う人の中には、誤訳ではないかという人もいます。仮想という言葉は、英訳すると「imaginary」あるいは「supposed」で、仮に考えただけというような意味になります。例えば、「仮想敵国」という言葉はありますが、それを「バーチャル・エネミー」と訳すと、実際に戦争が起こってしまうというような話になります。よって、バーチャルという言葉は、もう少しリアルな方に寄った言葉だとご理解いただければいいのかもしれません。
そのような、ややクラクラするような感じを持っている言葉がバーチャルという言葉ですが、恐らくその言葉遣いが良かったせいもあり、社会の注目を集めているということかもしれません。
●VRという言葉が注目を集めたのは30年前
ところで、VRという言葉が注目を集めたのは、実はそれほど新しいことではなく、技術の分野では今から30年ほど前のことになります。
具体的にいうと、1989年にアメリカのVPL社(Visual Programming Language)がとある博覧会で、「未来の電話はこのような形になる」ということで、ゴーグル型のディスプレイ(今でいうところのヘッドマウンテッドディスプレイ)を人に被らせたのですが、そのディスプレイを被ると周りが360度見えるわけです。
そこで、電話をかけるとドアが突然開き、向こうから、今でいうところのアバターが入ってきて、「こんにちは」といったことを言うわけです。つまり、テレビ電話のその先の姿が見えるというものですが、そのような形のシステムが面白いではないかということで、VRという言葉が広がりを見せたというのが、今から30年ほど前のことです。
実は面白い話が一つあります。そこで彼らが送り出したヘッドマウンテッドディスプレイ(HMD)の名前が面白いことに、「アイフォン」だったのです。で、アイフォンというと、今はスマホのiPhoneが有名ですが、そちらはinformationの「i」プラス「Phone」であるのに対し、その時のアイフォンはアイが目の「eye」でした。
ですから、目で見える電話というような形で、彼らはネーミングしたのかもしれません。恐らく偶然だとは思いますが、そのようなところで同じような名前が使われているというのは、少し面白い話かなと思います。
いずれにしても、そのような形で、VRはぽっと出での技術ではなく、実は昔から結構いわれていた技術がもう一度、つまり二巡目でまた話題になった、というところも面白いことだと思います。
ちなみに、VPLの写真の中に黒い手袋が写っていますが、実はその黒い手袋も結構面白いのです。これは人間の体をトレースすることができる手袋で、手の形を変えると、その情報がそのままコンピュータの中に入っていきます。例えば、目の前に置かれた360度の映像の中にバーチャルな物体がいろいろと存在するわけですが、そのバーチャルな物体をその手袋で持ち上げたり、投げたりというようなことができるという仕組みなのです。
●VRの技術は3つの要素から成っている
ではもう少し教科書的に、VRの技術とは基本的にどのような技術の組み合わせかということについて、お話ししておきたいと思います。
VRの技術は3つほどの要素から成るといわれています。1つ目は、先ほどからヘッドマウンテッドディスプレイのことを話していますが、目の前に現実と見紛うばかりの映像世界をつくり上げることは、非常に先進的なディスプレイの技術が必要になってくるということです。
それから先ほどデータグローブ(手袋)の話を少ししましたが、実は目の前に見える世界が単に見回せるというようなレベルの話ではありません。現実に物体があるということは、何か目の前に物体があり、それを自分で触ることができて初めて現実になるわけですから、触るための仕掛けというものが必要...