●現在のVRブームは第二期のブーム
VR(バーチャル・リアリティ)ですが、前回お伝えしたように、そもそもその言葉が登場するのは1989年です。ですから、すでに30年近い歴史を持つ技術だといっていいでしょう。ですから、正確にいうと、今のブームは、第二期のブームだといえると思います。
今、VRを理解するに当たって非常に重要なことの一つは、その世代の違いを理解するとことだと思います。例えば、技術的な環境が全く違っています。第一期である1989年のブームの時は、実はVRと密接な関係にあるべきインターネットという技術もまだ非常に未成熟でした。
今の学生に話すと、「信じられない」と答えるのですが、実はウェブという概念がまだ1989年にはありませんでした。現在ではウェブサイトから画像を供給するなどということは、当たり前のことのように語られますが、当時のVRは、ある意味では一人ぼっちといいますか、スタンド・アローンのシステムだったということを、一つ挙げることができると思います。
現在はIoTということで、さまざまなセンサーが気楽に手に入ったり、あるいはスマートフォンが広く普及したりしていますが、そのようなことは当時、全く考えられていませんでした。
30年というと、だいたいその分野の研究者も一巡してしまうほどの話なので、われわれが非常に苦労していたような技術を、今の若い研究者の人たちはいとも簡単に乗り越えていくようなところを見ると、本当に代替わりだなという感じをするというのが、現在のVR技術の現状かと思います。
●第一世代の頃からの変化は大きなコストダウン
そして、その変化の中で非常に分かりやすいのは、大きなコストダウンがあったということでしょう。
前回「アイフォン」の話をしましたが、当時おそらく日本円で1台当たり300万~400万円ほどしたのではないかと思います。アイフォンは広い視野角を持つヘッドマウンテッド・ディスプレイですが、性能はどのぐらいだったかというと、画像の分解能でいえば100×150です。100×150というと、聞き間違えだと思われた方もいるかもしれません。しかし、本当に100×150で、視力でいうと恐らく0.1あるかないか程度のぼやけた映像が目の前に広がっている、あるいはモザイクそのものという言い方をした方がいいのかもしれません。そのような映像が広がっているわけですから、その中では当然、文字など読めません。それが初期の頃のVRという技術の実体でした。
それが今は、ご案内のように、ゲームマシンの中ですでにヘッドマウンテッド・ディスプレイが入るようになってきています。値段は数万円で、しかも画像の分解能でいえば、ハイビジョン、2Kぐらいのものが比較的簡単に手に入るようになった、という時代がやってきたということです。
ちなみに最近、100円ショップに行ったのですが、このようなメガネが売りに出されています。これをスマホに付けて眺めると、HMDになってしまうのです。ですから、スマホを持っている方であれば、100円プラスすることで、当時400万円ほど払わないと買えなかったヘッドマウンテッド・ディスプレイが実現できてしまいます。しかも今のスマホは2Kぐらいのレゾリューション(解像度)は平気で存在しますから、それよりもはるかに高い性能を持っているヘッドマウンテッド・ディスプレイが実現できるという時代がやってきたということです。本当に30年たつと、隔世の感があるということです。
それから、もちろんコンピュータ自体も大きく進歩しています。コンピュータの能力がどのぐらい上がっているかというと、年々倍々ゲームのように上がっているといわれています。そういう意味で、順調に、そして指数関数的にコンピュータの能力が上がってきた結果、スマホのようなものが非常に安価に供給されるようになってきたということも、世代の違いだと思います。
第一世代の頃は、われわれもいろいろな先生方と語り合って、一体どうしたらHMDのような特殊なデバイスを、世の中に普及させることができるだろうか、と考えていたのですが、気づいてみれば、すでにスマホがHMDになるという状況に進歩してきたということです。
●VRの技術を支える周辺も進歩している
もう一つ、「技術の生態系」といいますが、技術を支える周辺のいろいろなものについてです。先ほどインターネットのウェブの話をしましたけれども、それと同じように、例えば、しばらくすると5Gが現実のものになってくるでしょう。
また、準天頂衛星というものがこの前、打ち上がりましたけれども、準天頂衛星を使えば、今のポジショニング(位置)がかなり正確に決まるということで、それもほとんど現実のものになってくると思います。
先ほど「ARは屋外で」といいましたが、屋外に出ていこうとしたとき、例え...