●メタバースは今までのVRと何が違うのか
DXプラスVRという矢印の先にメタバースという世界があるということを前回まで申し上げたつもりです。実際ここに来て、メタバースというキーワードが急速に世間の注目を集めるようになってきました。
メタバースとは「電子空間の内部につくられた、われわれにとっての新しい活動空間」とも定義できると思います。一方で、バーチャルな空間の中に入り込む技術がVR(バーチャルリアリティ)ですから、それと非常に近い関係にある技術だということは言うまでもないことです。先ほども申し上げたように、VRとDXが重なったところ、つまりネットワーク上に展開した世界がメタバースだという言い方もできるでしょう。ただ、今までのVRと決定的に違うのは何かということを、整理してお話ししておくほうがいいかと思います。
それは、やはり人が入り込むということです。今までのVRはともすれば自分が中心で、自分がVRの世界の中に入り込んでいって、そこでいろいろな体験をする。だから、VRの場合には、たまたまそこに人がいるといった感じになります。メタバースの場合には、むしろそこにたくさんの人が入っているということが大きいでしょう。 そういうことを可能にするような技術はいったい何かということが、メタバースにとっての非常に大きな技術項目ということになるだろうと思います。
実はVRと同じく、メタバースも2巡目のブームに差し掛かっています。つまり、最近よくいわれるようになったメタバースですが、ブームとしては2巡目ということです。多少年齢を重ねた方であれば、2007年頃に「セカンドライフ」というものがあったことを思い出される方も多いのではないかと思います。それは実際には、VRより少し後から当然出てくる話題ではありますが、2007年頃に一度メタバース・ブームがあったということです。
その頃、いろいろ専門家が集まって、「この技術はいったいどういうものか」ということをやや俯瞰的に捉えて議論をする機会がありました。いろいろな資料が残っていますが、その中で私が面白いと思っているものを少しご紹介しましょう。
●メタバースを4つの世界に分類する
その折に「メタバースロードマップ」がつくられ、複数の種類があるメタバースをいくつかに分類すると面白いという話が出ています。
スライドの右のほうに、メタバースの世界が平面(の図)で表現されていますが、これにはX、Yの2つの軸があります。まず縦軸のほうのY軸は、リアルかバーチャルかという軸です。メタバースというと、どうしてもコンピュータの中に入り込んでいく話が多いのですが、それはY軸でいうと下のほうになります。上のほうは現実の世界とバーチャルの世界がどのように混ざるかということで、上に行くほど現実世界の存在感が増えてきます。それがY軸で、リアルかバーチャルかの軸ということです。
それから、X軸のほうも面白いのですが、左側のほうに“External”と書いてあります。「外部」のことです。右側のほうには“Intimate”と書いてあります。「自分自身」のことです。世界を見るときには、まず自分自身というものがあり、その外側に外部の世界があるということで、そのどちらに軸足を置くのかという選択が確かにあるということです。
そのように、「自分自身か、外側か(内側か、外側か)」と、「完全にコンピュータの中に入り込んでしまった世界なのか、あるいは外側の物理的な世界なのか」という二つの軸で区切ってみると、数学的な表現でいう「象限」が4つできます。高校生あるいは中学生の頃に、第1象限、第2象限、第3象限、第4象限という呼び方を習われたと思いますが、そのような4つの世界に分かれるのです。
“Virtual Worlds(バーチャルワールド)”“Mirror Worlds(ミラーワールド)”“Lifelogging(ライフロギング)”“Augmented Reality(オーギュメンテッド・リアリティ)”というキーワードが出ていますが、それらに分けて整理してみると、見通しがよくなるのではないかということです。では、このあと1つずつ説明していきます。
●バーチャルワールドから拡張身体まで
まず、第4象限からですが、右下のほうで“Virtual Worlds”と書いてあります。個人中心の世界であり、かつ完全にコンピュータの世界の中で起こっている出来事ということです。これは、ある意味で狭義のVRということになるのではないかと思います。自分自身がどっぷりと電子世界の中に入っていって、何か体験をするということです。
現実とまったく関係のないシミュレーション世界が展開するという意味では、「セカンドライフ」などもそのあたりから発祥しているのではないか、もともとの震源地...