●10年前倒しになったVRのネット拡散
それでは、これからどんなタイプの新しいVR(バーチャルリアリティ)技術が大きく進歩していくことになるだろうかということについて、説明していきたいと思います。
ひと言でいうと、現在のVR技術は、スタンドアローンといいますか、1台のコンピュータのように比較的小さくまとまっていますが、一方で非常に大きな広がりを見せている、例えばインターネットのようなネットワーク系の技術と一緒になって誰でもどこでも使えるような状況に進化していくということが、非常に重要なことだろうと思っています。
もちろん、ネットワーク上にVRの技術が進化していくだろうということは、コロナ以前からいわれていたことです。
今、お見せしているスライドは、日経の「テクノロジー・ロードマップ」というものです。これは私自身が作ったもので、その時点でのVRの技術がインターネット上に拡散し、誰でも使えるようになるだろう、しかも基盤化していくだろうと申し上げました。
ただ、これをよく見ていただくと分かるように、こういった動きが本格化するのは2030年くらいの時期だろうと予測をしています。ところが、今の動きは、まさにその話が10年あるいは数年ほど前倒しになったということになるのだろうと思います。
ここで、一般的な情報技術のことを今みんなが騒いでいるような「DX」と呼ぶとすると、その技術は今、もうすでに広く社会に浸透している状況になっているでしょう。例えば、スマホが普及したり、あるいはSNSが普及したりして、われわれの社会はDXなしには成り立たないような状況にまで行っているわけです。
●DXプラスVRによるメタバース世界の登場
前回お話ししたように、コロナの発生とともにZoomやTeamsのようなDX系のツールが機能して、社会のリモート化を非常に大きく助けてきたという事情もあります。このスライドの左側にあるように、大学の演習などもZoomを使ってなんとかやっているのが現状のところではないかと思います。
しかしながら、機械を使う実習の講義などのように、残念ながらまだまだそうしたものに置き換えられないようなところもあります。おそらく大学の講義にしても、会社の場合にしても、全面的には置き換えられない部分が多いといわれているのが現状ではないかと思います。
また一方で、リモートは疲れるという話もあります。実際、生で会って話をするのと、このような画面を通して人と話をするのでは、やはり少し勝手が違うとおっしゃる方も多いと思います。
ですが、こういった問題を解決するために、例えばVR的な技術を使えばどうなるでしょうか。VRはそもそも空間を共有することができる技術ですし、自分自身の身体に対してもう少し意識を持っていくことができる技術です。このように、DXにVR的な要素をつけることによって、何か問題が解決できるのではないかと考えてみることは、はなはだ自然なことだろうと思います。
ですから、スライドの上半分にあるように、(繰り返しますが)DXにVR的要素をつけることによって何か改善が図れるのではないかということです。それが、今回の一連の講義の中でテーマとしようとしているメタバースという世界になっていくのだろうと思います。
ちなみに、VRという世界に軸足をもって考えてみると、冒頭に申し上げたように、VRの技術がネットワーク上に展開されるということは、DXの世界では今や当たり前の話ですが、そういった要素をVRの世界に付け加えていくことによって、同じことになると思います。つまり、DXプラスVRということで、2つの要素が組み合わされ、掛け合わされることによって、新たなメタバースという世界が登場してくる。そういうことだろうと思います。
●VRの世界をネットワーク上に展開させる「オーバーブラウザ型」
ではここでVRの世界に立ち戻って、VRはどう変わっていくのかという話をしていこうと思います。
だいたい2つぐらいの視点があるのではないかと私は考えています。キーワードとしては「オーバーブラウザ型VR」が1つ目、「NOモーション型VR」が2つ目ということになります。1つ目はネットワーク関連の話題で、ネットワーク上でVRが動作できるようになるといいという話です。もう1つの「NOモーション型」はインタフェースが変わるという話です。従来VRというと、非常に大袈裟な装置を使うので、それはそれなりに面白くはあります。例えば目の前にある物体を触ってみる、大きな空間を動き回ってみる、そういうことをするために大規模な装置を使ったりするわけですが、そういったものが非常に小さい形で家庭の中に...