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世界の所得分布を表す「エレファントカーブ」の読み方

エレファントカーブの読み方

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
『大不平等―エレファントカーブが予測する未来』
(ブランコ・ミラノヴィッチ著、立木勝翻訳、みすず書房)
世界の所得分布を表す「エレファントカーブ」をもとに、グローバリゼーションが世界経済にどのような影響を及ぼしたのかについて解説するレクチャー。エレファントカーブが示すのは、この20年間の新興国の躍進とそれによる「取り残された人々」の出現である。しかし、その読み方を変えることで新たな事実が浮かび上がってくるという。
≪全文≫

●世界中の家計調査が描く「エレファントカーブ」


 「この図は一体、何でしょうか」という話から始めます。

 これはブランコ・ミラノヴィッチ氏(世界銀行調査部のチーフエコノミスト)が使っている「エレファントカーブ」なのです。この“エレファント”とは何かというと、この図が実は世界の所得分布を表しているのですが、その図が鼻の部分を含めた象の形に似ているということで、そう呼ばれています。

 2017年、2018年にかけて世界の中で最もはやり、使われた図はこれではないかと、私は思っています。つまり、非常にたくさんの人がこの図を使ったということですが、なぜ使ったかというと、この調査自体は世界銀行調査部のチーフエコノミストであるミラノヴィッチ氏が、世界中の家計調査を集めたものだからです。かつては、家計調査というのは一国でも大変だったのですが、今回は世界中120ヶ国程度の国から集めました。そして、それを購買力平価により転換するという大変な作業をしたのです。


●エレファントカーブに表れる3つの層


 もう一つの図を見ると分かりますが、1988年から2008年までの約20年間の変化です。この縦軸は何かというと所得増加のパーセントを表しており、横軸では世界中の所得を百分位で1から100までの間に並べ替えています。そうすると、一番左の方に最も所得の低い層、真ん中辺りに所得分布の中くらいの層がいて、右に行くほど所得が高いということになります。そして、過去20年間どのくらい所得が伸びたかということが、縦軸で分かるわけです。

 これを見ると一目瞭然で、図の真ん中辺り(A)のところがこの20年間に伸びています。これはどのような層かというと、このうちの10分の9は中国、あるいはインドなどの新興国の個人が、グローバリゼーションの恩恵で所得が伸びていったのです。そして、80~85くらい(B)のところは、所得の伸びが停滞しています。この停滞しているのはどこかというと、その約7割がOECD加盟国の個人所得のやや下の方の人の層です。Cは何かというと、先進国で富裕層と呼ばれている、トップ1パーセントの個人の人たちです。ですが、このうちに半分くらいはアメリカで、アメリカの10~12パーセントくらいの個人がここに入るのではないかと思います。


●グローバル化の功罪-経済成長、レフト・ビハインドと分極化


 では、グローバル化によって何が起きたのか。この20年間の変化は、この図を見ると分かるように、真ん中の45から65くらいまでの間で中間層の所得が飛躍的に増加しました。これによって、世界の所得の不平等は改善されました。これはグローバル化のいい点です。技術革新が起きる、あるいは国境を越えて資本が移動する、企業活動が活発になり投資を行う。これらのことは、いろいろな受入国に対して大きな変化になったわけで、日本でいえば戦後の経済成長、あるいはその後の東アジアの経済成長となり、韓国や台湾などと同じように中国もインドも伸びていったということです。

 ところが、1990年代に、あるいは2000年にかけて起きたことと同じように、中国やインドなどが先進国の職を奪ったともいえるのです。取り残された人を「レフト・ビハインド」といいますが、こうした所得の伸びなかった層がドナルド・トランプ氏の支持者たちだというのはよくいわれることです。つまり、途上国に職を奪われた、あるいは今までの製造業の中にいた人たちの所得が伸びない、もしくは失業してしまうというようなことが起きたのです。グローバル化によって、「レフト・ビハインド」と呼ばれる取り残された層が出てきたのです。その取り残された層が、多分このBのところですが、ここを集中的にトランプ氏は自分の支持に持っていったのではないかと思われます。

 あるいは、分極化が起きたことです。それは、富裕層と所得のあまり伸びない取り残された層の分極化です。この現象はヨーロッパでもアメリカでも起きました。そのような意味では、世界の分極化をもたらしたグローバル化ということが、この図から分かるわけです。


●中国効果を除くとエレファントカーブが変わってくる


 しかし、このエレファントカーブをもう少し詳しく見ると、違う観点、論点で話ができるのではないかということを、イギリスの「Resolution Foundation」というところが試算をしています。日本と旧ソ連圏を除いた図がありますが、それが赤い線で示されている図です。そして、少し薄い黄色で出ている図は何かというと、日本と旧ソ連圏と中国を除いたものです。つまり、赤い線には中国効果が非常に出ているということになります。

 では、中国効果を除いてしまうと...
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