●世界中の家計調査が描く「エレファントカーブ」
「この図は一体、何でしょうか」という話から始めます。
これはブランコ・ミラノヴィッチ氏(世界銀行調査部のチーフエコノミスト)が使っている「エレファントカーブ」なのです。この“エレファント”とは何かというと、この図が実は世界の所得分布を表しているのですが、その図が鼻の部分を含めた象の形に似ているということで、そう呼ばれています。
2017年、2018年にかけて世界の中で最もはやり、使われた図はこれではないかと、私は思っています。つまり、非常にたくさんの人がこの図を使ったということですが、なぜ使ったかというと、この調査自体は世界銀行調査部のチーフエコノミストであるミラノヴィッチ氏が、世界中の家計調査を集めたものだからです。かつては、家計調査というのは一国でも大変だったのですが、今回は世界中120ヶ国程度の国から集めました。そして、それを購買力平価により転換するという大変な作業をしたのです。
●エレファントカーブに表れる3つの層
もう一つの図を見ると分かりますが、1988年から2008年までの約20年間の変化です。この縦軸は何かというと所得増加のパーセントを表しており、横軸では世界中の所得を百分位で1から100までの間に並べ替えています。そうすると、一番左の方に最も所得の低い層、真ん中辺りに所得分布の中くらいの層がいて、右に行くほど所得が高いということになります。そして、過去20年間どのくらい所得が伸びたかということが、縦軸で分かるわけです。
これを見ると一目瞭然で、図の真ん中辺り(A)のところがこの20年間に伸びています。これはどのような層かというと、このうちの10分の9は中国、あるいはインドなどの新興国の個人が、グローバリゼーションの恩恵で所得が伸びていったのです。そして、80~85くらい(B)のところは、所得の伸びが停滞しています。この停滞しているのはどこかというと、その約7割がOECD加盟国の個人所得のやや下の方の人の層です。Cは何かというと、先進国で富裕層と呼ばれている、トップ1パーセントの個人の人たちです。ですが、このうちに半分くらいはアメリカで、アメリカの10~12パーセントくらいの個人がここに入るのではないかと思います。...
(ブランコ・ミラノヴィッチ著、立木勝翻訳、みすず書房)