エレファントカーブの読み方
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
世界の所得分布を表す「エレファントカーブ」の読み方
エレファントカーブの読み方
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
世界の所得分布を表す「エレファントカーブ」をもとに、グローバリゼーションが世界経済にどのような影響を及ぼしたのかについて解説するレクチャー。エレファントカーブが示すのは、この20年間の新興国の躍進とそれによる「取り残された人々」の出現である。しかし、その読み方を変えることで新たな事実が浮かび上がってくるという。
時間:10分58秒
収録日:2019年1月11日
追加日:2019年4月8日
≪全文≫

●世界中の家計調査が描く「エレファントカーブ」


 「この図は一体、何でしょうか」という話から始めます。

 これはブランコ・ミラノヴィッチ氏(世界銀行調査部のチーフエコノミスト)が使っている「エレファントカーブ」なのです。この“エレファント”とは何かというと、この図が実は世界の所得分布を表しているのですが、その図が鼻の部分を含めた象の形に似ているということで、そう呼ばれています。

 2017年、2018年にかけて世界の中で最もはやり、使われた図はこれではないかと、私は思っています。つまり、非常にたくさんの人がこの図を使ったということですが、なぜ使ったかというと、この調査自体は世界銀行調査部のチーフエコノミストであるミラノヴィッチ氏が、世界中の家計調査を集めたものだからです。かつては、家計調査というのは一国でも大変だったのですが、今回は世界中120ヶ国程度の国から集めました。そして、それを購買力平価により転換するという大変な作業をしたのです。


●エレファントカーブに表れる3つの層


 もう一つの図を見ると分かりますが、1988年から2008年までの約20年間の変化です。この縦軸は何かというと所得増加のパーセントを表しており、横軸では世界中の所得を百分位で1から100までの間に並べ替えています。そうすると、一番左の方に最も所得の低い層、真ん中辺りに所得分布の中くらいの層がいて、右に行くほど所得が高いということになります。そして、過去20年間どのくらい所得が伸びたかということが、縦軸で分かるわけです。

 これを見ると一目瞭然で、図の真ん中辺り(A)のところがこの20年間に伸びています。これはどのような層かというと、このうちの10分の9は中国、あるいはインドなどの新興国の個人が、グローバリゼーションの恩恵で所得が伸びていったのです。そして、80~85くらい(B)のところは、所得の伸びが停滞しています。この停滞しているのはどこかというと、その約7割がOECD加盟国の個人所得のやや下の方の人の層です。Cは何かというと、先進国で富裕層と呼ばれている、トップ1パーセントの個人の人たちです。ですが、このうちに半分くらいはアメリカで、アメリカの10~12パーセントくらいの個人がここに入るのではないかと思います。...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
「中華民族の偉大な復興」と中国外交(1)外交姿勢・前編
四字熟語で見る中国外交の変化
小原雅博
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプ大統領を止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
『貞観政要』を読む(1)長期政権を目指す者の必読書
北条政子も愛読した長期政権のバイブル『貞観政要』
田口佳史
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
プロジェクトマネジメントの基本(2)プロジェクトの複雑性とマネジメント
コスパが鍵!? 顧客満足につながる品質マネジメントとは
大塚有希子