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中国の現場で感じた悲観論と楽観論

国際政治を見る視点~外交の現実と理想(3)悲観論と楽観論

小原雅博
東京大学名誉教授
概要・テキスト
前回は国際政治における「現実主義」と「理想主義」の対比を見たが、今回は「悲観論」と「楽観論」を考える。世界が注視する中国の動向についても、現実主義:理想主義、悲観論:楽観論を組み合わせると、4種類のシナリオが出来上がるのだ。そこでは、複雑に絡み合う外交と内政の関係も大切な要素になる。(全6話中第3話)
時間:17:07
収録日:2019/07/25
追加日:2020/02/07
カテゴリー:
≪全文≫

●悲観論に突き動かされる「安全保障」


 皆さん、こんにちは。今回は「悲観論」と「楽観論」について、話してみたいと思います。

 国際政治は、経験則上、どうしても悲観論に支配されやすいと思います。その上、メディアは悲観論を煽るようなネガティブ報道に偏る傾向があります。国内政治が国民の不満を外に向けようとして脅威や危機を煽ることもあります。冷戦終結直後の一時期を除いて、あらゆる「いま」において世界は危険に満ちていると言われ続けてきました。

 2013年12月に閣議決定された「国家安全保障戦略」では、安全保障環境が一層厳しさを増しており、日本は複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面しているという指摘がなされています。こうした認識は、二つの構造的な変化、あるいは時代の潮流によって強まっていると思われます。

 第一に、グローバル化や技術革新に伴う負の側面です。例えば、国際テロ、大量破壊兵器の拡散、海洋や宇宙空間やサイバー空間におけるリスク、貧困や格差、感染症や気候変動、食糧・エネルギー・資源問題、さらには経済危機、金融危機、そして難民問題などです。

 第二に指摘できるのは、国家間の地政学的な対立と緊張です。例えば、北朝鮮の核・ミサイルの開発、中国の軍事力強化と海洋進出、ロシアのクリミア併合とウクライナ東部への介入、米中貿易戦争、アメリカとイランの対立、中国と台湾の関係などです。特に、貿易のみならず経済や軍事をめぐる覇権争いが米中間でも激化しているため、「新冷戦」の幕開けだという指摘もなされているほどです。

 このようにして、安全保障というのは悲観論に突き動かされる傾向があります。たしかに、北東アジアや中東・ペルシャ湾の動向は、地域の緊張を高め、軍事衝突の危険さえはらんでいます。歴史に根差す不信感や高まるナショナリズムは、和解や協力よりも反目や対立を生みがちです。


●平和と安全、経済繁栄を享受してきた東アジア


 しかし、その一方で日本を含む東アジア諸国は、歴史上戦争が最も少なく、そして大国間の戦争がない時代に生きているとも言えます。東アジアでは第二次大戦後、朝鮮戦争(1950年~1953年)、中印国境紛争(1962年)、ベトナム戦争(1964年から1975年)、中ソ国境紛争(1969年)、中越戦争(1979年)などが起きましたが、それ以後、大きな戦争は起きていないということです。

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