国際政治を見る視点~外交の現実と理想
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
中国の「人工島」問題における二つの正義とは
国際政治を見る視点~外交の現実と理想(4)パワーと正義が形作る国際秩序
小原雅博(東京大学名誉教授)
国際秩序は普遍的なものではない。力(パワー)と価値(正義)の相互関係によって形成され、変化していく流動的なものといえる。21世紀に入り、パワー・シフトが進むなか、中国やロシアは力による現状変更に動き出している。二つの正義と力がせめぎ合う例として、南シナ海における人工島問題を取り上げる。(全6話中第4話)
時間:13分59秒
収録日:2019年7月25日
追加日:2020年2月14日
カテゴリー:
≪全文≫

●中国の「人工島」問題における二つの正義


 皆さん、こんにちは。今回は「国際秩序」について、少し話をしてみたいと思います。

 国際秩序は、力(パワー)と価値(正義)という二つの要素とその相互関係によって形成され、維持され、そして改変されます。

 21世紀に入って以降、アメリカが主導する「法の支配を基礎とする、自由で開かれたリベラルな国際秩序」は、アメリカのパワーと威信の揺らぎ、そして中国やロシアの力による現状変更の動き、さらには従来の秩序を支えてきた「西側陣営」の経済的・社会的行き詰まりによって大きく揺らいでいます。パワー・シフトが進むなかで、国際秩序はどう変化していくのでしょうか。

 パワーと正義の関係は、国際政治においても一筋縄ではいきません。力を伴わない正義も、正義を欠いた力も普遍性と持続性を持ち得ません。

 南シナ海では、アメリカと中国が力と正義をぶつけ合っています。アメリカは、リベラル秩序の「正義」(「法の支配」)を主張して、「力」の行使(「航行の自由作戦」)を示しています。これに対して中国は、当事国でないアメリカが「国際法」の名を借りて南シナ海問題に介入していると批判し、中国の「正義」(国際法が認める主権や領土保全)を侵害していると非難し、「力」の行使(人工島建設とその軍事化)を続けています。つまり、アメリカも中国も、それぞれが異なる「正義」を掲げ、それぞれの「力」を互いに行使しているのです。

 現段階で見る限り、アメリカの行動が中国の行動を止めることができたかというと、そのような効果・効力はなかったと言わざるを得ません。中国からすれば、「航行の自由作戦」こそが南シナ海を軍事化するものだということです。アメリカは中国の人工島化・軍事化批判をし、それに対する「航行の自由作戦」を行っているのですが、それこそが南シナ海を軍事化するものだと中国は言い、自国の主権と領土を守るため、「自国の」島嶼を軍事化せざるを得ないと主張しているのです。


●「超えてはならない一線」を超えない「サラミ戦術」


 こうして二つの異なる「正義」は衝突し、国際秩序は「力」によって変質していくわけです。中国は、「サラミ戦術」(力の行使により少しずつ既成事実を積み重ねることで有利な戦略環境をつくり出そうとする戦術)を駆使して、アメリカの「超えてはならない一線」を超えな...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
中国の「なぜ」(1)なぜ「中国は一つの国なのか」
武力で負けても文化で勝つ? 恐るべし「中原」の同化力
石川好

人気の講義ランキングTOP10
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
健診結果から考える健康管理・新5カ条(1)血管をより長く守ることが重要な時代
健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと
野口緑