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国際秩序が動揺すると、理想主義より現実主義が強くなる

国際政治を見る視点~外交の現実と理想(2)現実主義と理想主義

小原雅博
東京大学名誉教授
概要・テキスト
国際政治を見る視点として、現実主義と理想主義という二つの考え方をもとに議論していきたい。日本では、両者が対立し相容れないことは、集団的自衛権をめぐる議論でも経験したことだ。国際秩序が動揺すると、理想主義より現実主義の力が強くなる傾向がある。両者をバランスよく兼ね備えるには、どういう点に注目すればいいのだろうか。(全5話中第2話)
時間:14:15
収録日:2019/07/25
追加日:2020/01/31
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≪全文≫

●国際秩序が動揺すると「現実主義」のほうが強くなる


 皆さん、こんにちは。前回に引き続いて、「国際政治の理論」ということで、少し入門的な話をしてみたいと思います。それは、いわゆる「現実主義」と「理想主義」という二つの考え方です。

 皆さんのご記憶にもまだ残っているかと思いますが、2015年夏、日本では集団的自衛権をめぐって、国会やメディア、あるいは一般大衆のなかでもさまざまな議論が行われ、対立もありました。

 激しく対立する賛成・反対双方の意見を聞くなかで、私はそうした議論の背後にそれぞれの人々の世界観や人間観の違いが存在しているのではないかと感じました。それこそがまさに、国際政治における「現実主義(リアリズム)」と「理想主義(リベラリズム)」の違いであり、人間や世界の枠組みに対する見方の違いの存在であるように思います。

 現実主義といえばパワーを重視する考え方ですが、リベラリズムには道義(正義)あるいは相互依存、国際機関を重視する考え方の違いがあるわけです。

 今日のように国際秩序が動揺し、対立や紛争が起きてくると、どうしても「あるべき」姿を追究する理想主義より、現実に「ある」姿を見極めようとする現実主義(リアリズム)が強くなるような気がします。


●リアリズムとリベラリズム、両方の視点が必要な理由


 リアリズムやリベラリズムの歴史については、これまでも議論をしてきたので省略しますが、ニクソン政権でアメリカ外交を担当したキッシンジャーは、著書『Diplomacy(外交)』(1994年)のなかで、「歴史上安定した国際秩序は、勢力均衡が機能し、観念の共有が可能となった『ウィーン体制』と冷戦中の米国の事実上の『覇権(帝国)』だけである」と述べています。

 日本では、リアリストの泰斗である高坂正堯先生が、「勢力均衡の存在しないところに平和はなかった」とまで言っています。そういうリアリズムの世界が、今日の東アジアでも強くなっているのではないかという気がいたします。

 現実主義の大家であるE・Hカーは、「『権力政治(パワー・ポリティクス)』を本質とする国際社会では、パワーこそが最重要の要素である」と主張しました。彼は第一次大戦から第二次大戦の間を「危機の20年」として冷徹に分析しましたが、その彼にして、「国際政治が常に権力政治であるというのは事実の一端」でしかなく、「い...
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