●土砂災害にはハード対策とソフト対策がある
砂防・地すべり技術センターの池谷浩です。「土砂災害から命をまもるために」と題して話を進めたいと思います。悲惨な被害を伴う土砂災害です。皆さんと一緒に土砂災害について考えてみましょう。
他の災害と同じように、土砂災害の対策はハード対策とソフト対策の二本柱で成り立っています。ハード対策とは構造物による対策のことで、法律的にいうと「砂防法」「地すべり等防止法」、そして通称「がけ法」といわれる「急傾斜地法」から成り立っています。例えば土石流でいうと、砂防堰堤や遊砂地によって、土石流の流れを止めたり、抑制したりします。そして、下流への流れを無害にするために流路がつくられます。
砂防堰堤の一つのパターンに、このような「鋼製堰堤」があります。普段は水を流しますが、いざ土石流が出てくると、格子のところに引っかかって土石流が止まる仕組みです。すでに後ろの方に溜まっているのが、お分かりかと思います。
また、がけ崩れでは、がけの「法(のり)面」を保護するための法面保護工や擁壁工などがつくられます。
一方、ソフトの方では、土地の利用規制や避難対策が取られます。砂防でいうと、「土砂災害防止法」という法律によって、まずは危険な区域の調査が行われています。そして、土砂災害警戒区域と特別警戒区域という二つのゾーンに分けられて公表がなされ、ハザードマップがつくられています。
避難については、各都道府県の砂防部局と気象台で土砂災害警戒情報が出されるようになっています。その情報は、市町村の出す避難勧告の参考情報として使われています。
●地域全体を守るハード対策、人命に特化するソフト対策
実際に、これらハード面とソフト面の対策の効果と課題について考えてみましょう。
ハード面の効果としては、人命だけでなく家や田畑などの財産、インフラやライフラインなどを守ることができます。避難所や病院などの施設も守れます。しかし、実際にそのための事業を行うには、時間と費用がかかります。一朝一夕に安全な場所をつくるというのは、大変難しいのです。
一方で、ソフト対策は人命だけしか守れません。費用はそれほどかかりませんが、その人命でさえも、住民の皆さんの理解がないと、なかなか守れないのです。なぜならば、ソフト対策、とくに避難対策の主役は、そうした危険な区域に住んでいる住民の皆さんだからです。住民の皆さんがいざというときに危険な区域から安全なところへ身を移さない限り、避難対策は完結しないのです。
実際に基本計画をいろいろ考えたときに、一番の課題となるのが、住民の皆さんの土砂災害に対する理解ということになるかと思います。
それでは対策の基本はどうかというと、やはり人命だけでなく、地域全体を守るためのハード対策を計画的に、プライオリティをつけて実施することが、私は基本だと考えています。
しかし、そうはいっても、なかなか財政が厳しい現在、一朝一夕に安全が担保できるわけではないので、その間の災害を考えると、やはりソフト面の強化、特に避難計画の強化は大変重要だと思っています。
●土石流ハード対策で住民が戻ってきた島原・安中地区
ここで一つ、ハード面の対策の効果について話をしてみたいと思います。火山地域の対策として、雲仙普賢岳の話をします。
雲仙普賢岳は、平成の初めに約200年ぶりに噴火を開始しました。そして、地域に多くの火山噴出物を残しました。その結果、雨のたびに土石流が発生し、水無川という川の下流に位置する島原市安中地区にとてつもない被害を与えたわけです。その結果、災害前に住んでおられた2400世帯が2100世帯にまで減少したといわれています。
その水無川で国の砂防事業が開始され、上流域には砂防堰堤群が施工されました。また、下流側には、土石流を安全に流すための施設として、導流堤群が施工されました。その結果、現在では安中地区に2600世帯の方が生活していると、島原市が公表しています。
すなわち住民の皆さんが生活するためには、地域の安全と安心が必要だということです。その地域の安全と安心は、やはりハード対策がメインになっているのです。
●住んでいる箇所の危険度を知り、避難のトリガーを逃さない
そうはいっても、その間に時間と費用が大変かかっているので、その間のことを考えると、ソフト面の重要さも依然残ります。ここで、ソフト対策としての考え方を、住民の目線で考えてみたいと思います。
住民の皆さんにお願いしたいのは、自分の住んでいるところの危険性を知っていただきたいと...