●BIG Historyを把握しようとした『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』
長谷川眞理子です。本日は、人類の進化全体についてユヴァル・ノア・ハラリが書いた『サピエンス全史』、そしてその後に刊行された『ホモ・デウス』という本について解説し、私の感想お話ししたいと思います。
『サピエンス全史』という本は、世界的にも随分有名になり、よく売れています。その後、続編として『ホモ・デウス』という本を同じ著者が書きました。『サピエンス全史』には「文明の構造と人類の幸福」、『ホモ・デウス』には「テクノロジーとサピエンスの未来」というサブタイトルがついています。この本は、私たち人類を指す「ホモ・サピエンス」という種が、その進化の舞台から現在のテクノロジーと国際的な政治の交流という世界に至るまで、これまでどのように活動してきたのか、何がサピエンス特有のことなのか、今後どのように発展していくのかなど、さまざまな論点に関して議論しています。
著者のユヴァル・ノア・ハラリですが、実は生物学者ではなく、オックスフォード大学で中世史、軍事史を専門として学んだイスラエル生まれの歴史学者です。歴史学者は通常、文字で記録されている時代以降の歴史について議論してきました。一方、歴史とは過去のことを振り返るものなので、進化学もある種、歴史の学問です。そうした考えから、彼はチンパンジーから分かれて人類へと進化した後、人類がたどった道筋を全て振り返りました。長い人類の進化史全体の中で、現在の人類の歴史を位置付けようとしたのです。大変な労作であると思います。
彼は生物学や進化人類学の専門家ではありません。ですが、よく勉強して、「BIG History」というものを把握しようとしたという努力は、非常に高く評価できると思います。
先ほど申し上げましたが、この『サピエンス全史』には「文明の構造と人類の幸福」という日本語のサブタイトルがついています。しかし、原著である『Sapiens』という本のサブタイトルは、 "Brief History of Humankind"です。先ほど「BIG History」と私は申し上げましたが、こちらは「Brief History」です。
「BIG History」とは最近流行している考え方で、宇宙の始まりから現在に至るまでの過程を全て通してものを考える、百何十億年という歴史の中で現在の人類を考えるという枠組みです。数年前から環境問題など...
(ユヴァル・ノア・ハラリ著、柴田裕之翻訳、河出書房新社)