『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』
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『サピエンス全史』の認知革命「虚構を共有する」とは何か
『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』(2)認知革命
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』の第1部では、認知革命についての議論が展開される。人類は、主観としての認識だけではなく、他人も同じものを認識しているという認識を持つことによって、虚構を共有する能力を身に付けた。この能力こそが、人類の持つ集団としての力を発揮させることに大きく役立ったのである。(全5回中第2回)
時間:8分03秒
収録日:2019年4月3日
追加日:2019年8月2日
≪全文≫

●虚構を共有できるようになった認知革命とは何か


 まず『サピエンス全史』の認知革命について詳しく考えてみましょう。「虚構を共有する」とは具体的にはどういうことでしょうか。

 例えば、この本で挙げられているのは、プジョーという会社の例です。実体としてここに本があるということとは異なり、プジョーという会社は実体として存在しているわけではありません。どういうことかというと、その会社でさまざまな人が働いていて、株式の売買がなされていますが、株式に関する法律や、法人格を有する法人という存在などは、全て私たちのつくり出した物語、すなわち虚構だということです。

 プジョーが倒産すると、多くの人が解雇されるなどして、さまざまな意味でその存在が無くなります。しかし、会社という存在やプジョーという自動車の名前などは、実体としてそこにあるものではありません。それは、その存在を了解しているという、心の中で持っている信念で、そうした虚構がみんなで共有されているから、会社という組織や国家という組織が存在できているのです。

 こうした考え方は、認知心理学的には「三項関係の理解の共有」といえると思います。それについて説明すると、私、あなた、そして外の世界という3つの存在がある中で、私が世界をどう見ているか、あなたが世界をどう見ているか、私があなたをどう見ているか、という3つの関係があり、私とあなたと世界という3つ(三項)の関係をお互いに理解し合うこと、そしてその理解を互いに共有していることです。その理解が共有されると、言葉を用いて、名前を付けることができます。


●実在しているものから抽象的な概念まで共有することができる人類


 例えば、ここに犬がいて、花があるとします。犬に名前を付けます。花にも名前を付けます。そして、私は犬を見ていて、あなたも犬を見ている。私は花を見ていて、あなたも花を見ているとします。ここに犬と花があるということを、私が知っているということをあなたが知っている、という全体の関係性を、言葉を介してコミュニケーションすることができます。

 その先に、犬や花など実在しているもの以外の何らかの表象についても、言語化して共有することができるようになります。例えば、平和とは何か、勇気とは何か、といった実在するものではない概念を言葉で...

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