『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
農業革命の影響とは…本当に恩恵をもたらしたのか?
『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』(3)農業革命
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
人類の発展にとって次に重要だったのは農業革命である。農業が発展することで人類は「計画可能性」を獲得し、未来の生活について思いを巡らすことができるようになった。また、富の蓄積が可能となり、その結果、行政機構や書字言語が発達した。しかし一方で、富の独占によるヒエラルキーと不平等が顕在化するなど、良くない側面についてもユヴァル・ノア・ハラリは言及している。今回は『サピエンス全史』第2部・農業革命について、長谷川真理子氏が独自の議論を展開する。(全5回中第3回)
時間:10分08秒
収録日:2019年4月3日
追加日:2019年8月2日
≪全文≫

●農業革命が本当に恩恵をもたらしたのかどうかはよく分からない


 次は農業革命です。これは定住生活をするようになって、食糧を自分たちで作るようになる時代のことです。農業革命以前の狩猟採集生活は、実はそれほどみじめなものではありませんでした。楽ではありませんが、多様なものを臨機応変に捕まえて、栄養的にはバランスの取れた食生活を送っていました。運動も頻繁に行って、栄養的には豊かで健康的な生活だったのです。

 それが、さまざまな理由はありますが、およそ1万年前に農耕と牧畜、定住を人類は選択して、そうした生活形態が全世界に広まっていきます。そうすると、豊富にカロリーを摂取できるようになり、人口が増えました。小麦や米は保存が可能なので、カロリーとして毎日摂取できるエネルギーの総量は増えたのです。ところが、少数の種類の食べ物、例えば米ならば米だけに特化した食事が中心となるので、栄養が非常に偏ります。ですので、この時期の食事は、エネルギーは豊富でも、栄養バランスはあまり良くなかったのです。こうした栄養バランスの悪さは、骨などに影響が出ていて、農業が始まった以降の骨で健康的ではないものが多く残っています。

 加えて、多くの人が密集して暮らすようになることで、感染症などのリスクが増えました。このような意味で、農業革命が本当に恩恵をもたらしたのかどうかはよく分からないと書いてあります。

●農業革命が人類にもたらした良い側面と良くない側面


 私が非常に重要だと思うのは、「計画可能性」です。農業や牧畜の場合、自分で穀物を作り、自分でそれらを管理することで生計を立てていました。この意味で、自然に存在するものを探して、取りに行き、取れたらバンザイ、取れなかったら空腹を我慢するという、計画や予測がほとんどできない世界とは大きく異なるのです。農業革命によって生活が予測可能、計画可能になったので、勤勉に働く必要が出てきました。また、将来に関する不安が可視化されるようになりました。

 狩猟採集社会では自然現象に追いつくことだけに着目するので、自分たちで生活をコントロールすることはなかなかできません。一方、農業や牧畜社会では自分で管理するので、「来年の春には何をしなければ」など、少し先の時間軸まで予測可能、計...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
ブラックホールとは何か(1)私たちが住む銀河系
太陽系は銀河系の中で塵のように小さな存在でしかない
岡朋治
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
培養肉研究の現在地と未来図(1)フェイクミート市場とリアルミート研究
食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治
性はなぜあるのか~進化生物学から見たLGBT(1)有性生殖と無性生殖
なぜ雄と雌の2つの性別があるのか…「性」の謎とLGBT
長谷川眞理子
進化生物学から見た「宗教の起源」(1)宗教の起源とトランス状態
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
長谷川眞理子
断熱から考える一年中快適で健康な住環境(1)日本の住宅の実態と問題点
なぜ日本は夏暑く、冬寒いのか…断熱から考える住宅の問題
前真之

人気の講義ランキングTOP10
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(2)秀吉の実像と「太閤神話」
秀吉・秀長の出自は本当は…実像は従来のイメージと大違い
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典