ソフトな歴史学のすすめ
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『サピエンス全史』で提起した「虚構を信ずる能力」の問題
ソフトな歴史学のすすめ(2)ドメスティケイションの重要性
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
歴史を大きく見る際はその捉え方が非常に重要になるのだが、近年は「ドメスティケイション(野生の動植物を人間の管理下で栽培化・家畜化すること)」が注目されている。中でも、「農業」の果たした歴史的意味について考える。(全5話中2話)
時間:12分20秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年10月18日
≪全文≫

●言葉にも生活の歴史が蓄積されている


 例えば、日本人は極めて長く稲作を行っています。その中で、稲の植物を見て「芽が出たな」というときの「芽」と、まなこの「目」は、「ものの最初に出てきたもの=めぶき」ということで、おそらく同じ語彙でしょう。

 次に、「葉が出たな」といいますが、「ハ」とは何かから派生したものをいいます。だから、木から派生したものは「葉」です。そして、われわれの口の中にある歯も、身体から派生してきたものとして、「ハ」なのです。その「ハ」を支えるのが、歯「茎」です。これも植物の語彙と一致しています。

 さらに、「穂が出た」の「穂」。「ホ」とは「先端にあるもの」という意味があります。身体の中で、先端にあって赤くなったり膨らんだりするのは「頬」です。そして、稲の先端は「稲の穂」、火の先端は「火の穂」、槍の先端は「槍の穂」なのです。さらに、先端で膨らむものということで、顔の中ならば「頬」なのですが、男性器や女性器といった性器についても同じ語彙になり、接尾語の「ト」をつけて「ホト」という言い方があるのです。

 私の郷里の福岡を含む九州地域では、濁音にした「ボ」という音を2つ重ねた言葉は男性器や女性器、さらには性交渉を示す言葉となります。私は恥ずかしくて口に出して言うことができませんが……。

 いまだに忘れられないのは昔、ブラジルというプロレスラーがいました。彼の名は、ホの濁音を2つ並べた、☆☆(ボボ・)ブラジルだった。ですが、この名前はその地域では使えません。私が小学生のとき、新任の女性の先生をつかまえて、悪ガキがわざとそのことについて質問したりして、それはもう大変な事態になっていました。これは「ホ」という言葉の由来が理由なのです。

 大学の講義の中でも、身体呼称を必ず教えなければいけないときがあります。これは避けて通れず、だいたいその話をしなければなりません。ですが、10年たって同窓会などで卒業生と話してみると、彼らが覚えているのはそこだけです(笑)。他はもう全て忘れてしまっていて、教育とは実に空しいものだと思います。

 このように、言葉にも生活の歴史が蓄積されている。それが非常に重要なのです。


●人間に生まれた「虚構を信ずる力」


 そこで今、「グローバル・ヒストリー」といわれている分野の研究者、さらに民族考古学や文化人類学の分野を担当し...

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