ソフトな歴史学のすすめ
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コリン・タッジが唱える「小規模農耕」とは何か
ソフトな歴史学のすすめ(3)小規模農耕から生まれるネットワーク
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
従来は、人類が大規模農耕を行うようになり文明が大きく発展したと捉えられていたが、それに若干の修正が出てきた。それが「小規模農耕」の存在だ。いったいどのようなものなのだろうか。上野氏の祖母のエピソードも交えながら解説する。(全5話中3話)
時間:11分46秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年10月25日
≪全文≫

●従来の歴史観からの修正


 農業を人類の最大の革命と考え、そこから銅の文化、鉄の文化も発展し、人類が大きな生産力を持つに至ったという歴史観があります。これに基づいて日本でも、採集狩猟を中心とした縄文社会から、農業(米)を中心とした弥生社会に変わり、銅から鉄に変わった古墳時代に移る、という大きな歴史を描いてきました。

 それに対して、若干の修正が出てきたのです。先ほど(第2話)触れましたが、コリン・タッジが、「大規模農耕になるに当たって、小規模農耕が先行する時代があった(いきなり大規模農耕にならないのだ)」と言うのです。

 どういうことかといえば、必要な植物を庭などの住居の近くに植える、ということが繰り返されたのです。つまり、山や野原に行って「これは食べられるぞ、おいしいぞ」と分かったら、「これを庭に植えよう」となる。そういうことが根菜類で行われた形跡があるのだけれども、根菜類は核がないからなかなか検出できないのです。だから、小規模農耕論はなかなか普及しないけれども、小規模な農耕というものがあった、というのがコリン・タッジの意見です。

 そこまで言ってくれると、私の研究分野である8世紀の『万葉集』について、ハッと気づくことがあります。何かというと、『万葉集』で「やど」という言葉が出てきます。「やど」とは、今の旅館などを表す「宿」とは違う意味があり、「建物の周り」を表します。

「やど」の「ど(と)」は場所を表す接尾語といわれています。建物(や/屋)があり、その周りが「やど」というように。その「やど」に、例えばハギといった、自分の好きないろいろな植物を植えるといったことが行われる。

 平安時代になると、それを「前栽(せんざい)」という言い方をします。古典が好きな方は、庭の植え込みを「前栽」と言うことを知っているでしょう。実はこれが方言に残っていて、庭のことを「せんぜえ」と言う地域がある。私の郷里の福岡も、庭のことを「せんぜえ」と言ったりします。

 想像していただいたら分かるのですが、田舎を少し歩いてみてください。家があって、そのそばにはだいたい小さな畑があります。それほど広くはなく、畳5、6枚ほど、大きくても7、8枚ほどでしょうか(10畳はないかな)。そこに、ちょっとした作物が植わっているのです。例えば、大根や豆類、ややおしゃれなものとしてハーブなどを植え...

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