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『わらしべ長者』が伝える「ものの交換」の大事な意味

ソフトな歴史学のすすめ(5)目に見えないものに価値がある

上野誠
國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)
概要・テキスト
『わらしべ長者』の物語が伝えているように、人間は「ものの交換」によってネットワークを形成し、ものの価値はそのネットワークの中で決まってきたということだ。そうした歴史を考えると、現在の歴史学は従来のもの(ハード)重視の考え方ではなく、ネットワークといった目に見えないものに価値がある、いわばソフトな歴史学のほうが向いているのかもしれない。(全5話中5話)
時間:11:51
収録日:2021/06/04
追加日:2021/11/08
≪全文≫

●『わらしべ長者』で重要なのは一度も不正をしていないこと


 こういったこと(交換によるネットワークの形成)を端的に伝えている物語は、『わらしべ長者』でしょう。

 『わらしべ長者』では、男が最初は飛んでいたアブを藁(わら)に結びつけて遊んでいたら、子どもが「ほしい」と言ったので、それをあげたらミカンをもらいます。ミカンを持って歩いていると、「喉が渇いて死にそうだ」という人がいたのでそのミカンをあげたら、「ありがとう、君は命の恩人だ」ということで反物をもらいました。

 反物を持って歩いていると、「馬が死にそうだ。こんな馬だが、おまえさん、もらってもらえないか。その代わりに、その反物をくれないか」と言われ、反物を渡して馬をもらいます。「死にそうだな」と思いながらも馬に水を飲ませると、馬が元気になりました。

 馬と歩いていると、屋敷から人が出てきて、「これから旅に出なければいけないのだが、馬がない。だからその馬を売ってくれないか」と言われます。そこで馬を売ると、「私はこれから旅に出るので、屋敷を君に貸そう。もし私が3年以内に戻ってきたら屋敷は返してくれればいいが、3年以上戻ってこなかったら君にあげるよ」と言って、馬に乗って出かけていった。3年たっても主は戻らないので、屋敷は男(わらしべ長者)のものになった、という話です。

 この話は、交換に交換を重ねて、藁とミカン、ミカンと反物、反物と馬、馬と屋敷というように、次々に交換するものは高価なものに変わっています。ですが重要なことは、一度もわらしべ長者は不正をしていないということです。つまり、相手が欲しているものならば、この交換条件で成り立つということです。

 世の中の売買とはそういうもので、坪単価が1万円の土地であっても、坪単価が500万円や1000万円の土地であっても、需要があれば売買は成り立つのです。大切なのは、その中で不当なことをしてはいけないということ。相手が持ってきたお金を奪った挙げ句に土地を渡さない、といったことはいけないということです。

 実をいうと、「ダイヤモンドに価値がある」「金に価値がある」「兌換券に価値がある」「土地に価値がある」といっても、それは相対的な価値です。“金”というものに、もともと一定の価値があるわけではない。人間社会の中で、“金”というもの、“土地”というもの、“銀”というものに価値を与...
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