ソフトな歴史学のすすめ
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『わらしべ長者』が伝える「ものの交換」の大事な意味
ソフトな歴史学のすすめ(5)目に見えないものに価値がある
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
『わらしべ長者』の物語が伝えているように、人間は「ものの交換」によってネットワークを形成し、ものの価値はそのネットワークの中で決まってきたということだ。そうした歴史を考えると、現在の歴史学は従来のもの(ハード)重視の考え方ではなく、ネットワークといった目に見えないものに価値がある、いわばソフトな歴史学のほうが向いているのかもしれない。(全5話中5話)
時間:11分51秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年11月8日
≪全文≫

●『わらしべ長者』で重要なのは一度も不正をしていないこと


 こういったこと(交換によるネットワークの形成)を端的に伝えている物語は、『わらしべ長者』でしょう。

 『わらしべ長者』では、男が最初は飛んでいたアブを藁(わら)に結びつけて遊んでいたら、子どもが「ほしい」と言ったので、それをあげたらミカンをもらいます。ミカンを持って歩いていると、「喉が渇いて死にそうだ」という人がいたのでそのミカンをあげたら、「ありがとう、君は命の恩人だ」ということで反物をもらいました。

 反物を持って歩いていると、「馬が死にそうだ。こんな馬だが、おまえさん、もらってもらえないか。その代わりに、その反物をくれないか」と言われ、反物を渡して馬をもらいます。「死にそうだな」と思いながらも馬に水を飲ませると、馬が元気になりました。

 馬と歩いていると、屋敷から人が出てきて、「これから旅に出なければいけないのだが、馬がない。だからその馬を売ってくれないか」と言われます。そこで馬を売ると、「私はこれから旅に出るので、屋敷を君に貸そう。もし私が3年以内に戻ってきたら屋敷は返してくれればいいが、3年以上戻ってこなかったら君にあげるよ」と言って、馬に乗って出かけていった。3年たっても主は戻らないので、屋敷は男(わらしべ長者)のものになった、という話です。

 この話は、交換に交換を重ねて、藁とミカン、ミカンと反物、反物と馬、馬と屋敷というように、次々に交換するものは高価なものに変わっています。ですが重要なことは、一度もわらしべ長者は不正をしていないということです。つまり、相手が欲しているものならば、この交換条件で成り立つということです。

 世の中の売買とはそういうもので、坪単価が1万円の土地であっても、坪単価が500万円や1000万円の土地であっても、需要があれば売買は成り立つのです。大切なのは、その中で不当なことをしてはいけないということ。相手が持ってきたお金を奪った挙げ句に土地を渡さない、といったことはいけないということです。

 実をいうと、「ダイヤモンドに価値がある」「金に価値がある」「兌換券に価値がある」「土地に価値がある」といっても、それは相対的な価値です。“金”というものに、もともと一定の価値があるわけではない。人間社会の中で、“金”というもの、“土地”というもの、“銀”というものに価値を与...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「歴史と社会」でまず見るべき講義シリーズ
「武士の誕生」の真実(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体
関幸彦
徳川将軍と江戸幕府~徳川家斉(1)家斉が長期政権を維持できた理由
11代将軍・徳川家斉が50年もの長期政権を築けた理由
山内昌之
明治維新から学ぶもの~改革への道(1)五つの歴史観を踏まえて
明治維新…官軍史観、占領軍史観、司馬史観、過誤論の超克
島田晴雄
ローマ史に学ぶ戦略思考~ローマ史講座Ⅳ(1)古代の持つ意義と重み
一神教もアルファベットも貨幣も全て古代に生まれた
本村凌二
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
豊臣政権に学ぶ「リーダーと補佐役」の関係(1)話し上手な天下人
織田信長と豊臣秀吉の関係…信長が評価した二つの才覚とは
小和田哲男

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――認知行動療法とポジティブ・ルーティーン
西野精治
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
日本の財政と金融問題の現状(1)財政赤字の何が問題か
日本の財政は本当に悪いのか?将来世代と金利の問題に迫る
木下康司
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦史に見る意思決定プロセス~日本海軍の決断(1)日本海海戦・東郷平八郎
なぜ東郷平八郎はバルチック艦隊を対馬で迎え撃ったのか?
山下万喜