●「透明な氷」を作るときの考え方は工業的にかなり応用されている
岡部 こんな教養的な話ばっかりでは面白くないので、僕の関わっている金属生産についての話をします。こういう透明な氷を作ること(ガスを含まない氷を作ること)は、要は不純物が少ない氷、製品を作るということです。これは、工業的にかなり応用されています。
―― レアメタルもこの一種ですかね。
岡部 はい。
これを応用したものはいろいろあるのですが、昨日用意する際に考えたのは帯溶融(精製)法(Zone melting/refining)と偏析法(Segregation method)というものです。僕たちの学問分野では、普通によく使う方法として、超高純度の金属や化合物を作るときに工業的に今も応用されています。
―― 今も応用されているのはすごいですね。
岡部 例えば、コンデンサーに使う超高純度アルミニウムです。アルミニウムというは、皆さんが使っているものでも十分高純度なのですが、コンデンサーなどに使うのは、電子材料ですからさらに高純度です。これは何をやるかといえば、偏析法というものを使いまして、1回アルミニウムを溶かして、ゆっくり固めていきます。氷と一緒です。ただ、どんどん固まっていき、最後に溶け残ったものには不純物が多いのですけど、それを捨てるんです。それを何回かやると、かなり純度がいいアルミニウムができます。
―― なるほど。取り除くわけですね。
岡部 はい。僕は聞いたことがないのですが、昔、水の質が悪かった頃、寒い地域では外に水を置いておいたら、外から凍っていき、最後に溶け残った水は捨てて、お昼になったらその氷を溶かして飲むと、これがおいしいそうです。
―― それで蒸留するわけですね。
岡部 まさにこれが偏析法とよばれる高純度化手法です。要は、凍ることによって不純物を外に押し出すということです。氷が空気を外に押し出すのと同じです。これは普通に工業的に使われています。
ただ、もっと凝った方法があります。帯溶融(精製)法という方法で、金属の塊を片方から順々に溶かしていくのですね。どんどん溶かしている部分をずらしていくと、不純物が次第に外側に来るんです。
―― なるほど。同じことなのですね。
●不純物を取り除く技術は半導体の基礎となった
岡部 同じことです。もうちょっと効率がいいんです。これのおかげで、超高純度のゲルマニウムが作られたのです。超高純度のシリコンもこの方法です。
―― シリコンもこの方法ですか。
岡部 はい。逆にいうと、この技術がなければ、今の半導体(産業)のスタート(勃興期)のところはなかったでしょう。半導体には、超高純度のゲルマニウムとかシリコンが必要で、それをどうやって作るかというときに、まさにこの方法が応用されました。要は、一度溶かしてゆっくり固めていく。しかも、その方向を制御する。しかも、不純物がより液体側に残るようにする。そういった意味では、レアメタルの製造法には欠かすことができないのです。
―― これでチタンも作るわけですか。
岡部 チタンの場合は、残念ながら固体側に不純物が全部溶けてしまうので、この方法は使えません。
―― なるほど。でも、シリコンはこれができるわけですね。
岡部 そうです。シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムなどです。
―― アルミニウムというのは、もともとレアメタルだったわけですよね。
岡部 大昔はそうですね。
―― この方法のおかげでコモンメタルになったわけですか。
岡部 それはちょっと違いますね。アルミニウムは、(溶融塩)電解法という別の方法が使われて、より安く、金属を作ることができるようになった。ただ、純度はいいのですが、不純物を含んでいるので、そのアルミニウムをさら高純度化して電子材料に使うときに、今の偏析法などが使われます。そういった意味では、より高付加価値なものを作る。普通の氷も売れますけど、透明なロックアイスの方が、より価格が高いのではないですか。
―― 高く売れますよね。
岡部 はい。だからそういったときに、いろんな精製法があるのですが、これは先ほどの状態図を理解して、不純物の挙動を理解していたらできるのですね。大学院ではこれを教えています。
―― なるほど、面白いですね。これがなかったら半導体はできなかったわけですよね。
●「透明な氷」の作り方にはいろんな方法がある
岡部 そうです。まとめますと、透明な氷を作るには、一度沸騰させてから凍らせる、これはいいですね。水の中に溶解する空気そのものを追い出すわけですから。ただ、凍らせる途中に普通は空気が入ってくるだろうと思います。だから、うまいこと...