●透明な氷の作り方を科学してみる
岡部 ここからは、理解度、科学的教養が試される本番になっています。
―― すごく得した気分です。先生に教えてもらうと。
岡部 次のネタです。今度は、「透明な氷の作り方を科学する」。これ、いきましょう。
一般的な、家庭の氷は濁って白い。神藏家の氷は、おそらく大きくて透明で、お酒をロックで飲みたくなる。事実ですか。
―― いや、それは事実じゃないですね。透明な氷は買ってきますね。
岡部 神藏家にある氷は買ってきた透明な氷で、それでロックを飲めると。僕はロックでも、白くて不透明な氷でしょっちゅう飲んでいるのですが。それでは、透明な氷を作るには、どうしたらいいのか。今日はネタとして考えてきました。
ここからが質問です。透明な氷を作るには?いろんな方法が考えられます。
1番、一度水を沸騰させてから凍らせる。
2番、超高純度の水を凍らせる。
3番、一方からゆっくり冷やす。
4番、その他。
コンビニで買ってくるのはその他に入ります。
―― 軽井沢の氷を切り出して、カキ氷を作る氷は、最初から透明ですよね。
岡部 あれはそうですよね。氷屋のは本当に塊の氷ですよね。
―― あれを取り出してきますよね。それからすると、3番ですかね。
岡部 正解です。まさに3番です。しかも、おそらく不純物がまったくない氷、超高純度の水を凍らせても透明になります。ただ、ガス成分がなければ、おいしくないですよね。ミネラルが入っていない。
―― ミネラルが入っていないとおいしくないのですね。
岡部 では、1番はどうですか。一度水を沸騰させてから凍らせる。これは、効きますかね。
―― これも、あることはあるとは思いますけど、軽井沢の氷屋はこれはやっていないかと。
岡部 エネルギーがかかりますしね。まさに、それです。だから一番、経済的な合理性があるのは、3番です。ただ、この場合、透明なだけで、他の不純物が入っているかもしれない。逆にいうと、溶けたときにおいしい水かもしれない。
―― 不純物が入っているかもしれないし、おいしいかもしれない。
●水と空気の「状態図」を理解すれば透明な氷は作れる
岡部 そのあたりの差ですね。今、僕が僭越ながら神蔵さんに問うた質問は、一度水を沸騰させるのも正解だし、超高純度の水を使うのも正解だし、一方向からゆっくり凍らせること、あとはコンビニで買ってくる(その他)、全部正解なんですね。ここらへんを理解した上で、次にそれを科学していきましょう。科学するというのは、なぜか、なぜか、なぜか、と。
岡部 やはりこれも、さきほどあった水、空気系の状態図です。さっきは水-塩系の状態図で、マイナス21度までいかなければ、凍らないという話ですけど。今度は、水-空気の状態図を考える。水の凝固過程を理解したら、透明な氷がなぜできるかが分かります。逆にいうと、どうやったら、効率よく透明な氷が作れるか、ということも全部分かってきます。今日の話の後は、おそらく透明な大きな氷を見る目が変わると思います。
―― 面白いですね。
岡部 サイエンス、科学のバックグラウンドをちゃんと得ていると、ものを見る目が変わるんですね。
―― ものを見る目が変わるんですね。
岡部 これも水-空気系状態図というのを、考えなければいけないのです。今日は細かい話はしませんが、一番のポイントは、水の中には空気が溶けることです。そんなに溶けないんですけどね。0.0038パーセントです。少ないですよね。水道水の中には、調べてみたら0.003パーセントです。ただ、すごいのは、さらに酸素は空気の5分の1ですから、0.000何パーセントの酸素が溶けているだけで、金魚がちゃんと泳いでいるんですね。
―― 生きることができるんですね。
岡部 恐るべき能力ですね。薄い酸素を水の中から取って、動物が生きている。だから、薄いながらも溶けているのです。
―― 薄いながらも溶けている。
岡部 そうです。0.0038パーセントまでしか溶けないといわれていますけど。今のは水の話でしたが、もう一つ大事なポイントは、固体になると何が起きるかといったら、空気が全然溶けなくなってしまうということです。これが、0.0005パーセントです。要は、10分の1くらいの溶解度になってしまいます。
―― ものすごく低くなってしまうわけですね。
岡部 要は、水の中に空気は溶けるけど、固まると全く溶けなくなるのです。そういうことが事実としてあります。それも何度だったらどんな影響を受けるのかとか、何度まで水は安定なのか、というのは状態図というのを見れば、全部分かります。