●激動の時代における昭和天皇の事績『昭和天皇実録』
皆さん、今日は『昭和天皇実録』についてお話したいと思います。
平成26年8月21日午後、宮内庁、そして宮内庁書陵部により、天皇皇后両陛下に対して『昭和天皇実録』を奉呈したことが発表されました。この書物の内容については、9月の中旬をめどに広く公開されることになっています。
『昭和天皇実録』は、さまざまな公式の資料、あるいは個人の回顧録やメモなどに基づいて、昭和天皇のご一代の事績を中心に、日本の歴史を年代記としてまとめた書物であると聞いています。
この書物は、確かに昭和天皇を中心にして書かれていますが、皇室全般だけではなくて、昭和天皇の在世された昭和の御代につきまして、激動の時代、すなわち、第2次世界大戦の前と後、こうした時代の政治や社会、外交につきましても、昭和天皇との関わりを中心に記述したものであります。
●『六国史』から『明治天皇紀』まで~国史として貴重な天皇紀
この書物は、史料的な性格を併せ持つ編修ものでありますが、記述の形式としては時系列に沿った記述、すなわち編年体を採用しています。編年体による書物は、日本の歴史においては、古代の律令国家時代におきまして採られた歴史叙述の方法を採用したものでありまして、『六国史』と呼ばれる六つの国史が、編年体で書かれております。
『六国史』は、古代8世紀、養老年間の『日本書紀』『続日本紀』をはじめとして、『日本文徳天皇実録』、そして、10世紀の延喜の年間の『日本三大実録』で終わる六つの国史であり、神の時代、すなわち、天皇の最初の祖とされる神武天皇から清和、陽成、光孝天皇に至るまでの天皇の歴史について、国史として編集したものでありました。しかしながら、こうした書物は、天皇の事績を時の天皇に対して捧げるという意味があったものでありまして、同時代においては、全ての人の目に触れたわけではありません。
『日本書紀』から『日本三大実録』に至るこれらの書物は、現代の日本史研究においても重要な史料となっていますが、そうした流れをくんで、今回『昭和天皇実録』が編纂されたのです。
10世紀に『日本三大実録』が編纂された後、天皇の権威と朝廷の権力が衰退したこともあって、天皇を中心とした実録の編纂と記述は、およそ1000年間絶えることになりました。その後、近世から近代に入りまして、明治維新後、歴代の天皇の事績とその時代の国史を後世に残すべきだという議論が起こり、明治天皇の父の孝明天皇から『孝明天皇紀』、それから『明治天皇紀』、さらに『大正天皇実録』、そして、『天皇皇族実録』が編纂され、時の天皇に呈上、奉呈されたのです。
いずれにしましても、近代において編纂されたこれらの史料は、天皇を中心としながらも、国史として著された点において、歴史叙述、そして歴史の記録として大変大きな意味を持ち、そこに登場する政治家や軍人などの姿や事績などを含めて、われわれにその時代のリアリティを教えてくれたものなのです。
●編修に24年強を費やした大著、いよいよ公刊へ
今回、こうした流れをくみまして、平成2年度より宮内庁書陵部の編修課におきまして編修が開始され、平成25年度に編修を終了したと聞いていますこの宮内庁書陵部を中心とした作業が最終的に確認された後、平成26年、すなわち本年の8月に天皇皇后両陛下に奉呈されたのです。
この校訂本の装丁と分量について、今のところ私たちに知られているのは、まず、装丁は和製本であり、全体として、今の数え方で申しますと、約1万2000ページにもなる大部のものということです。これが60冊に分冊され、さらに、冒頭には目次や凡例の1冊が付属しています。すなわち、実録は一つのセットで61冊になるという大変膨大な書物になっています。
これは、間もなく公開されるのを機会にしまして、平成26年度から平成30年度に至る5カ年の計画で書店によって公刊され、私どもの目に広く触れることになるとされています。公刊本は、本文18冊、索引1冊の約19冊でありまして、本年はまず2冊が刊行されると聞いており、その2冊は、明治34年から大正9年を集録することになっています。どの書店や出版社から出すのかはまだ決まってないようで、これは、入札、応札の手続きを経て決まると聞いています。
いずれにしても、私たち歴史に携わる人間として、大変待ち望まれる大きな事業だと言わなければなりません。
●歴史家の目で見る『昭和天皇実録』の読みどころ~天皇の幼少期から青年期まで
私たちとして関心があるのは、昭和天皇のご誕生、あるいは、ご成長の具体的なありさま、そして、お小さい頃にお書きになられたとされる手紙やはがき、あるいは、ご自身の記録...