●今回の暴動に関する3つの問題提起
本日は、2020年6月現在、今まさに起こっている全米暴動についてお話しします。私は東秀敏と申します。米国安全保障企画で研究員を務めています。私の経歴を簡単に説明すると、米国の主にワシントンでシンクタンクに勤務、およびロビイング活動に数年従事しておりました。その経験をもとに現在、日本で起業して活動しています。
今回の話は、以前に暮らしたことのあるワシントンやテキサスをはじめ全米各地で見聞きしたことを基礎にした私の分析を取り入れたものになります。
さて、今回の暴動に関して、3つの問題提起をしたいと思います。1点目は、ミネアポリス警察による黒人男性に対する暴行が発端となって今回の暴動は起こったのですが、これが何を意味するのかという点です。2点目は、米国の崇高な建国の理念と人種問題、特に黒人差別の間の関係はどのようなものかという点です。3点目は、現在2020年大統領選に向けたキャンペーンが行われていますが、これに対してどのような影響があるのかという点です。この3点に関して、今回の分析を進めていきたいと思います。
要旨としては、2020年6月現在起こっている全米暴動は、米国建国以来、現在にまで尾を引く人種問題に起因しており、現行の大統領選挙に直接影響を与えるものです。ここで重要なのは、米国は人間平等という思想に基づき建国されているのですが、建国の際に人種差別を前提としていました。この矛盾は、「米国建国の原罪」とも呼べるもので、この点をしっかりと押さえなければ、今回の暴動を理解することは難しいでしょう。
人種問題は、黒人対白人という単純な構造ではなく、歴史的に見ると非常に複雑な問題です。さらに、この問題に政治が絡んでくるというややこしい構造になっています。特に冷戦後の人種問題には、イタリアのマルクス主義者であるアントニオ・グラムシの理論をもととする、文化マルクス主義が綿密に関連しています。ドナルド・トランプ大統領は、これに反対する勢力です。ですので、軍隊を動員する、一連の暴動の背景にいるANTIFAという組織をテロリズムと見なすと発言して圧力をかけるなどの、今回の非常に強圧的な対応の背景には、この文化マルクス主義に基づくリベラルの勢力を骨抜きにして、一気に再選にこぎつけようとする思惑があるためです。
ということで、これより、暴動の背景と米国の原罪、複雑な人種問題、文化マルクス主義と民主党の密接な関わり、そしてトランプ大統領と大統領選に対する影響という各問題について、詳しく説明しようと思います。
●平和的なデモから破壊行動、そして全米規模の暴動へと発展
まず、今回の暴動は5月25日にミネソタ州のミネアポリスという町で、黒人男性に対する白人警官による暴行が行われたことに端を発します。それが動画に撮影され、ソーシャルメディアを通じて一気に拡散されました。最初は平和的なデモだったのですが、ある覆面の男性が店の窓を壊している様子が偶然動画に撮影され、また拡散されました。これをきっかけに一気に破壊活動が増加し、現在のような状況となりました。
ここで重要なのが、「ANTIFA」と呼ばれる団体です。これは、アンチ・ファシズムの略語で、「ファシズム反対」という意味の極左集団です。この集団の人たちに動員がかけられたこともあり、州外から集まり、破壊行動を始めました。加えて、「Black Lives Matter」という黒人の公民権運動団体が、警察の廃止を求めるなど過激な要求を掲げるデモを組織し始めました。
一方、右翼もその勢いに負けずに、右翼と左翼の殴り合いの暴動に現在発展しています。6月上旬で、確認されているだけでも逮捕者は1万人を超えて、死亡者は20人以上となっています。他にも確認されていない事例は、多くあると思います。その結果、トランプ大統領はANTIFAを国内テロ組織として認定すると迫り、警察、FBI、州兵、軍隊、トランプ陣営の運動員、民間軍事会社などを総動員して、徹底抗戦する構えを見せています。
これがワシントンに飛び火。1812年の米英戦争以来初めて、戦火がワシントンに達するという異常な事態となっています。つまり、南北戦争以降、米国本土は外国の侵略の対象とならない、いわば聖域でした。真珠湾攻撃(1941年)の時でも破られなかったこの聖域が、現在火の海にあるのです。
●米国建国の理念と、その基礎に人種問題があるという矛盾
ここで重要なのが、米国の原罪という概念です。これは、人間の平等主義という思想に基づいて建国されたはずなのに、その基礎となったのが人種...